第34話:残酷な計画【100話で上場するビジネス小説】

YO & ASO

これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。

飯島は、増井の弱みを握ろうと躍起になっていた。しかし、彼の過去を調べれば調べるほど、そこには、真面目で誠実な仕事ぶりと周囲からの信頼の厚さが浮かび上がるばかりだった。

(このままでは、何も掴めないじゃない。いや、待てよ…?)

飯島の視線が、再び、タブレット端末の画面に釘付けになった。そこには、増井の家族構成に関する情報が表示されていた。

続柄:母

氏名:増井 静子

年齢:72歳

住所:東京都○○区…

施設名:特別養護老人ホーム ひだまりの里

入居理由:認知症、徘徊癖…

(ひだまりの里? どこかで聞いたことがあるような…)

飯島は、記憶を辿るように、目をつぶった。

(そうだ! あの時の!)

数週間前、飯島は、新規事業のプレゼン資料を作成するために、過去のCSR活動の報告書を調べていた時のことを思い出した。

(富士山電機工業は、数年前から、「ひだまりの里」という老人ホームに、多額の寄付を行っている。表向きは、地域貢献活動の一環ということになっているけれど…)

報告書には、寄付の経緯や金額、そして「ひだまりの里」の運営状況などが詳しく記載されていた。しかし、飯島はその中にある「違和感」を感じていた。

(寄付金額が、他の施設に比べて桁違いに多い。しかも、この施設の理事長は…)

飯島は、再びタブレット端末を操作し別の資料を開いた。それは「ひだまりの里」の登記情報だった。

(やっぱり、理事長は…!)

画面に表示された理事長の名前に、飯島は、息を呑んだ。

(まさか、こんなところで繋がるとはね。増井…。これは、利用しない手はないわ…)

飯島の脳裏に、ある恐ろしい計画が浮かび上がってきた。それは、増井の過去に深く関わる残酷な展開の始まりだった。

#新規事業

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