スタートアップ産業が活発化し、新たなビジネスが続々と生まれている日本。しかし、イノベーションを創出するのは、スタートアップだけではない。歴史ある大企業・中小企業からも、革新的なアイデアと起業家精神を備え、社会課題を解決する挑戦者たちが活躍している。 未来を変える可能性を秘める彼らの活動と、優れた新規事業にスポットライトをあてるのが、「日本新規事業大賞」だ。2024年5月15日に開催されたスタートアップ業界の展示イベント「Startup JAPAN」で行われた、同賞の最終審査ピッチを、Ambitionsでは5回にわたって紹介する。 第2弾は、株式会社CARTA HOLDINGSと株式会社電通の共同サービス「テレシー」。テレビCMの運用にネット広告の手法を融合させ、少額出稿や定量的な効果測定を実現した、株式会社テレシー創業者・土井健氏の新たなビジネスとは。
7兆円の広告業界に革命を起こす「運用型テレビCM」という発想
高額な出稿料に対し、効果測定が困難であることから、テレビCMへの広告投資を躊躇してしまう。そうした常識を覆すのが、運用型テレビCMプラットフォームの「テレシー」だ。
「テレシー」は、テレビCMに強い電通と、ネット広告サービスに長けたCARTA HOLDINGSの強みを掛け算して生まれた、大企業同士のコラボレーションによる新規事業だ。
「運用型テレビCMプラットフォーム」を掲げる同サービスの特徴は、①低額からテレビCMの戦略立案から運用までを委託できる点、②費用対効果を確認しながら最適な形でテレビCMに出稿できる点にある。
インターネット広告ではスタンダードであるCPM(※1)やCPA(※2)をテレビCMに適用することで、定量的な効果測定を実現した。クリエイティブや放映番組、放送局、放映エリアなど細かな粒度で効果を可視化する「テレシーアナリティクス」は、特許を取得している。
「テレシー」を活用すれば、テレビ広告を出稿 する際に、ターゲットを細かくシミュレーションしたプランが提案される他、企画、制作、放映もバックアップされる。中小企業やスタートアップなど、初めてCMに出稿するユーザーにもマッチする。
(※1)Cost Per Milleの略。広告表示1,000回あたりの費用
(※2)Cost Per Actionの略。顧客・成果を獲得するために、一人あたりにかかった費用
「テレビ業界の経験がなくネット広告やアドテクノロジー領域に強かったので、『テレビCMは本当に必要なのか?』という疑いから、この事業をスタートさせました」と語る土井氏は、テレビCMとインターネット広告の融合にあたり、ビジネスモデルを徹底的に整理。最低100万円から出稿できる仕組みを構築した。
「かねてより知人の経営者に話を聞いていたのですが、『ネット広告の出稿に月間数千万円をかけているが、テレビCMには手を出したことがない』という方がほとんど。理由は、高額な出稿料と効果測定の難しさでした。しかし、条件を絞れば低額でテレビCMを出稿できますし、しっかりとデータを追えば的確な分析も可能です。費用対効果さえ可視化できれば、新たなビジネスを展開できると考えました」
多種多様なマーケティング施策を実践し、広告事業者として成長
土井氏はネット広告やアドテクノロジーの領域でキャリアを積んだ後、東証一部上場やM&Aを役員として経験。2019年に電通子会社との経営統合によってCARTA HOLDINGSが設立したことを機に、「テレシー」の立ち上げに参画した。
2021年には株式会社テレシーが独立し、本格的に事業を始動した。現在、設立3期目にしてグロス売上78億を突破。2023年の第4四半期(10〜12月)は前年比74.9%増の24.5億円で、過去最高を更新している。成長を図る上で、土井氏が重視したのはマーケティング施策だったという。
「当社は設立以来、広告投資を積極的に推進。タクシー広告、エレベーター広告、アドトラック、ドローンショーなどを試みながら、自ら広告効果を体感し、各手法を代理店として扱うことで、ノウハウを蓄積してきました」
広告代理店、テクノロジーベンダー、そして広告主としての側面を併せ持つことで、事業成長を牽引した土井氏。インターネットで培った手法をマスメディアに持ち込んだことも、成功の秘訣だったのだろう。
「テレビCMは、大手広告代理店が巨額の投資を行う広告主に対し展開してきたビジネスモデルです。近年はイノベーションのジレンマに陥っていますが、顧客単価が数百〜数千万円の新たな市場を切り開けたことが、当社の成功だったといえます。ネット広告の人間がテレビCMに参入するケースは稀ですが、そうした自分の特異性も急速な事業成長の一因になったのではないかなと思います」
審査員との質疑応答
Q:テレシーは電通さんにとって、既存事業を奪い合う関係と捉えられなかったのでしょうか?
A:電通さんにも数百〜数千万規模の市場にはアプローチできていないとう認識があったため、競合関係とは捉えられませんでした。
text by Yuta Aizawa / photographs by kota Nunokawa / edit by Yoko Sueyoshi