トヨタ自動車の挑戦を支援する事業創出のしくみ「BE creation」

Presented by トヨタ自動車

Ambitions編集部

いま、トヨタ自動車の内側では、自動車の枠を超え、社会課題の解決、未来への価値づくりへの挑戦が始まっている。創業時から受け継がれる「世の中の人々を幸せにしたい」という想いを胸に、既存の自動車事業の枠を超えた新規事業創出にも積極的に取り組んでいるのだ。 その基盤となるのが、社内における新規事業を推進、支援する仕組み「BE creation(ビークリエイション)」。この仕組みを通して、どのような未来を描こうとしているのか。

上條祐輔

トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 主査

挑戦するDNAから生まれる新規事業の種

意外に思われるかもしれませんが、トヨタ自動車のフィロソフィーを言語化した文章には、「自動車」という言葉は登場しません。私たちが経営の核に据えているのは、幸せを量産すること。つまり「世の中にとって大切なことをどんどん進めましょう」という本質的な考え方です。そしてこの考えの根底に息づいているのは、先人たちの純粋な想いです。

発明家であり創業者の父・豊田佐吉は手織機で木綿を織る母の姿を見て「母を助けたい」という一心で織機を研究し、現・豊田自動織機を設立。その想いは創業者・豊田喜一郎に受け継がれ「国産自動車を日本人の手で作る」という想いのもと、豊田自動織機からコーポレートベンチャーとしてトヨタ自動車を設立、自動車産業を築きました。1960年代からは住宅事業や金融事業など、自動車以外の事業にも取り組んできました。

脈々と受け継がれるDNAを基盤に、私たちは自動車という枠を超え、新たな挑戦を続けています。私たちの先人たちがそうであったように、「世の中の人々を幸せにしたい」という変わらぬ想いこそが、新規事業創出の原動力にもなっています。

一人ひとりの社員の想いが強いため、かねてより新規事業の種は社内で数多く生まれていました。こうした新規事業の種をしっかりと形にするために、新規事業創出の仕組み「BE creation」は誕生しました。社内の各部署で行われていた新規事業創出の取り組みを統合し、2023年頃から本格的に始動したBE creationは、新規事業を生み出し、育てるプロセスを提供しています。

BE creationでは、少ない費用と手順で最低限の製品を作り、顧客の反応を繰り返し確認して事業の方向性を定めるリーンスタートアップの手法を用いています。この手法は、必要なものだけを必要なだけ生産する考え方(ジャスト・イン・タイム)で、良い製品をタイムリーにお客様へお届けする「トヨタ生産方式(TPS)」の思想と一致しています。無駄の排除と、業務やプロセスを見直す「カイゼン」を新規事業創出のプロセスに取り入れることで、より効率的かつお客様のニーズに合致した新規事業開発を進めています。

また、効率性を重視した机上での定量調査等だけでなく、実際に現場に足を運び、当事者に話を聞いて、1人でも良いので本当に解決したい課題を持つ人を見つけることを大切にしており、トヨタが大切にする現地現物を体現する方法で事業開発を進めています。このように新規事業においてもお客様の声に耳を傾けながら、お客様と社会のためになる事業を世に出すことを目指しています。

実際に新規事業を生み出す手段の1つとしては、社員から新規事業の種を公募する「B-pro(Breakthrough Project)」を実施しています。これには毎年数百件の応募があり、各社員の情熱が詰まったアイデアが集まります。書類・面談審査を経て、複数回の審査会を突破した2~3件の事業案が事業検証の段階に進みます。

事業性を検証するフェーズでは、実際に商品・サービスを売ることとなります。ここでは、営業・マーケティングからカスタマーサポートまで、やるべきことが広がるため、「E-biz(Establish Business)」という支援を構築しています。コーポレート部門とも連携し、少人数の起案チームで事業推進できるように組織的な体制を組み、サポートしています。

心動かす熱意と涙のドラマであふれる審査会

BE creationでは、新規事業のアイデアを「誰のため」「何のために」という視点で審査することを重視しています。市場規模や収益性は重要ですが、それ以上にお客様や社会にとって本当に価値のあるものを提供したいという想いが根底になければ、事業化までの道のりを乗り越えることが難しいからです。

一方で、事業化を果たせずとも、新規事業に取り組むことこそが価値だと感じることもあります。審査会では、起案者の熱意あふれるプレゼンに心を打たれることも少なくありません。試作品が顧客課題を解決する瞬間の映像を目にすると胸が熱くなります。

例えば、医療的なケアが必要なお子さんのご家族の負担を軽減するバギーを起案したチームの審査でのことです。通常、お子さんを車に乗せる際に、ご家族が抱きかかえてチャイルドシートに乗せるため、大変な苦労を伴っていました。その課題を解決しようと、車体から簡単に取り外して、そのまま車椅子にも使えるバギーを発案。それを試されたお母さんは、涙を流しながら「こんなことができるなんて」と喜んでくれました。映像をプレゼンで視聴したとき、審査する私たちも感極まり、涙をこらえることができませんでした。

目の前にいる人を幸せにできた──その実感はものづくりに携わる私たちを突き動かす原動力です。新規事業への挑戦は、一人ひとりの成長にもつながっていると感じています。

BE creationでは他にも、ドライブレコーダーを活用した救急救命活動の支援や、子ども向け交通安全見守りサービス、自動車の端材を活用したアップサイクル、ブロックチェーンを活用したデータ保全サービス、自動車事業で培ったノウハウを活かした住宅用蓄電池による給電システム、歩行リハビリテーション支援ロボット、農業支援、マリン事業など、約70案件を推進、検証中です。どれも、社員一人ひとりがお客様と社会の困りごとと真摯に向き合い、情熱を注ぎ込んで生まれたものです。

BE creationで推進する新規事業の一例。上から、車両用のシートレザーの端材を活用したアイテムを開発する「TOYOTA UPCYCLE」。子どもの交通安全行動の習慣化をサポートする「SayuU(サユー)」。ドライブレコーダーを活用した救急救命活動を支援するプロジェクト。

将来的には、このBE creationで培ったノウハウを活かして、より多くの企業と連携しながら、オープンイノベーションを推進していきたいと考えています。お客様と社会の困りごとの解決には、1社だけの力では限界があります。多くの仲間と協力し、共に未来を創造していくことが重要だと考えています。新規事業は、必ずうまくいくとは限りません。むしろ、失敗の方が多いかもしれません。

それでも、誰かのためにという想いを持ち続け、行動し続けることが大切です。困難に立ち向かう勇気と諦めない心を持ち続けていれば、きっと道は開けていきます。そう信じて、これからも多くの感動と共感を生み出しながら、未来へと力強く進んでいきたいです。


「BE creation」を運営する、新事業企画部 / 先進プロジェクト推進部

トヨタ自動車の新価値創造を促進する役割を果たしている新事業企画部と先進プロジェクト推進部では、約15名のメンバーが「BE creation」の運営を担当。段階的な審査、検証、メンタリング、営業、マーケティングノウハウの提供、リスク管理などを通して、ボトムアップ型の公募制度の起案者だけでなく、エネルギー事業など戦略的な新規事業や、アグリバイオ事業、マリン事業、ヘルスケア事業など、他にも多岐にわたる社内部署から相談を受け、自動車以外の領域に取り組むメンバーを多面的にサポート。お客様と社会が求める課題解決を通じて豊かな未来を創造することを目指し活動を展開している。

text & edit by Yoko Sueyoshi / photographs by Takuya Sogawa

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