
食と暮らしを通じて、人や地域に出会う事業を展開する株式会社キッチハイク。 取締役を務める川上真生子氏は、2021年に福岡市へUターン。「不妊治療中です」とさわやかに公言し、仕事を続けている。東京でキャリアを積んできた彼女の目に、15年ぶりの福岡はどう映っているのか。

川上真生子
株式会社キッチハイク 取締役CRRO
転勤族の家庭に生まれ、小学校から福岡市で育つ。東京大学文学部卒業後、2010年楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社)に入社。ECコンサルタント、社長秘書を務めた後、料理レシピサービス「楽天レシピ」で食関係の仕事に従事。2017年株式会社キッチハイクに転職し、2021年Uターンで福岡に移住。現在は同社で地域アライアンス担当役員を務める。
コロナ禍をきっかけに、地元・福岡への移住を決意
東京の大学を卒業後、川上氏がスタートアップのキッチハイクに転職したのは30歳のとき。
「上京してひとりで食事をするようになって、人と一緒に食べること、食が暮らしの中心にあることの豊かさを感じるようになりました。食や暮らしに関わる仕事をしたいと思っていたところ、キッチハイクの理念や事業内容に深く共感して入社を決めました」。
入社から4年経ち、コロナ禍でリモートワークになったのを機に、地元の福岡へUターン。市のスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Nextに九州オフィスを置きつつ、主に自宅でリモートワークをしている。
キャリア志向の女性が少なく、出産で中断を望む女性が4割
「福岡は相変わらず人情味があって、とても居心地がいい」と話す川上氏。一方で、働く女性としてはちょっとした違和感もあると打ち明ける。
「福岡の女性と話してみると、地場の大手企業で働いていても、キャリアを追求したい人より、ほどほどでいいと思っている人が大半という印象を持ちました。スタートアップに勤めている女性にもなかなか出会えず、女性が挑戦することがあまり一般的ではないのかな……と感じています。また、飲みの文化が根強いのは、交流にはとてもいいのですが、子育て中の女性はなかなか参加しづらいかもしれないですね」
「実は衝撃を受けたデータがあるんです」と川上氏が教えてくれたのは、「女性が職業を持つこと」に関する福岡市民の意識調査(2018年度)だ。
「子どもができたら職業を中断し、子どもに手がかからなくなって再び持つほうがよい」と答えた男性が45.7%、女性は41.3%となっている。
「なによりも、働く女性の4割がキャリアを中断すべきだと思っていることに驚きました」
人それぞれの事情をくみ、安心して働ける社会へ
「それでも私は、仕事と育児を両立し続けることが、豊かな人生のひとつの形だと思っています」と川上氏。2022年には「妊活宣言」をして、自身の「note」でも経緯を発信中だ。
その根底には「人それぞれいろんなものを抱えながら働いている。私がオープンにすることで励まされる人がいれば」という思いがある。
宣言後、プライベートな困りごとを話してくれる社員が増え、川上氏はそれらの声をもとに社員一人ひとりの事情や希望に寄り添う人事制度「LIFE」を新設した。さらに、子育て家族と地域をつなぐ自社事業「保育園留学」を推進するなど、仕事と家庭の両立を実践している。
「仕事や家庭など何を大切にするかはもちろん個人の自由ですが、福岡でも女性が働き続けて昇進し意思決定側に入ると、女性の声が会社や社会に反映されます。キャリアアップによって女性に使えるお金が増えると、女性向けのマーケットが広がりますよね。すると、街はより活気が出て、より魅力的になっていくのではないでしょうか。福岡は女性の人口が多い分、女性が活躍するとインパクトも大きいですよね」。
一度外に出たからこそ見えてきた、福岡の魅力と課題。川上氏は様々な女性の思いを受け止めながら、仕事とともに人生を謳歌していくつもりだ。
text by Emi Sasaki / edit by Chie Tanaka

Ambitions FUKUOKA Vol.1
「福岡経済の野心」
福岡のビジネスシーンが今、おもしろい。 日本でも例外的に人口が増加し、開業率は大都市圏中で5年連続1位。若者率も政令指定都市でトップを誇ります。さらに、福岡は現在100年に一度といわれる都市のアップデート「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」の真っ只中。街全体が生まれ変わる、エキサイティングなフェーズに突入している。 福岡というエリアが秘めるポテンシャルや、ビジネスの最前線、そしてビジネスパーソンの心を熱くする、福岡のビジネスストーリーの数々を届ける。