企業から引く手あまた、生物にヒントを得た特許技術 世界的な社会課題を解決する、B-Labの挑戦

UNIDGE

経済産業省の産学融合先導モデル拠点創出プログラム(J-NEXUS)に採択され、関西の産官学金が結集して大学発スタートアップ・エコシステムの形成を目指して活動する、関西イノベーションイニシアティブ(KSII)。 そして、「協業を科学」し、マッチングで終わらないオープンイノベーションの社会化を目指す、UNIDGE。 両者が連携し、関西エリアの大学発スタートアップに着目。この連載では、世界へ羽ばたこうとする各社の革新的な取り組みを紹介していきます。 第3回に登場するのは甲南大学発のベンチャー企業、B-Labです。同社は、生物のもつ機能や構造に発想のヒントを得てモノづくりをする「バイオミメティック・ケミストリー(生物模倣化学)」の領域で長年研究に取り組んできた、同大学フロンティアサイエンス学部生命化学科の甲元一也教授が立ち上げました。 大学教員と代表取締役社長という二刀流で活躍する甲元さんに、B-Labで取り組んでいる事業や今後の展望について聞きました。

甲元一也

株式会社B-Lab 代表取締役社長

鳥取県米子市生まれ。九州大学工学部を飛び級で退学後、同大学院工学研究科修士課程および博士後期課程を修了。2000年より科学技術振興事業団の日蘭国際共同研究分子転写プロジェクト、九州大学大学院工学研究院、北九州市立大学国際環境工学部での博士研究員を経て、2004年より甲南大学先端生命工学研究所で講師、2009年より同大学フロンティアサイエンス学部で准教授、教授を務める。2023年に株式会社B-Labを設立、甲南大学で出願・権利化された生物模倣化学に基づく16件の特許を社会実装している。

生物にヒントを得た特許技術を社会実装する

──取り組んでいる事業について教えてください。

B-Labは2023年1月に創業の、甲南大学が初めて認定した大学発ベンチャーです。私は2009年から大学内に自分の研究室を構えて研究を続けているのですが、そこで開発した特許技術を社会実装するために会社を設立しました。

私の専門は、バイオミメティック・ケミストリー、生物模倣化学です。これは、蓮の葉が水を弾く構造であることを参考に生み出された「ヨーグルトのカップのふた」といったように、生物のもつ機能や構造に発想のヒントを得て、モノづくりをする分野です。

B-Labではバイオミメティック・ケミストリーによって生まれた技術を企業向けに提供しようとしています。現在は、高水溶性のβ-グルカン(ベータ・グルカン)と機能性ベタイン水溶液の開発・販売を行っています。

──開発しているそれぞれについて、どういったものか教えていただけますか。

β-グルカンは食物繊維の一種で、キノコや海藻に含まれている成分です。人が取り込んだ際には、免疫機能を活性化させるなどの効果が期待されます。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、欧米では免疫力を高めて健康を増進する「イミューンヘルス」という領域が注目され、その市場規模は2026年に約6億ドルに達すると予測されています。β-グルカンは、そうした需要の高まりから、サプリメントや食品への利用が拡大しているのです。しかし、β-グルカン自体は水に溶けにくく、その利用にはさまざまな工夫を必要としてきました。

B-Labでは独自技術で、β-グルカンをナノ粒子に加工。未処理の場合と比べて150倍、水に溶けやすくなりました。体内への効率的な吸収が可能となったほか、ナノ粒子はポリフェノールなどの他の成分を内包することができ、それらの水溶性も向上させられます。こうした機能を応用して、サプリメントや化粧品、医薬品などの開発に使いたい企業へ、B-Labではβ-グルカンの粉末を製造・販売しています。

β-グルカンの粉末

──機能性ベタイン水溶液はいかがでしょうか。

ベタインはアミノ酸の一種ですが、海底火山や砂漠、氷点下の海など、極限環境に生息する生物の研究を通じて発見したのが、私たちが取り扱う新しい機能性ベタインです。

このベタインは、溶かすと水の構造が変わり、溶液を混ぜるだけで臨床診断薬の感度が高まったり、土壌の微生物を活性化して堆肥になるのを早めたりすることができます。さらに、水溶液の濃度を高めると、水に溶けなかった化合物が溶けるようになります。

そのため、食品廃棄物中の溶解度の低い成分を抽出したり、有機溶媒の代わりに活用したりといった用途に使うことができます。B-Labでは、この機能性ベタイン水溶液の製造・販売も手がけています。

機能性ベタイン水溶液

新技術を自ら商品にして、社会実装へ動き出すための起業

──創業の経緯についてお聞かせください。

私自身、起業しようとはもともと思っていませんでした。自分の研究室を立ち上げて以来、100社以上の企業と共同研究に取り組んできましたが、そこで生まれた研究成果を、企業が製品開発などを通じて社会実装してもらえたら、と考えていたんです。

しかし、新しい技術を開発すると、まずは市場の開拓が必要になります。そもそも市場がない領域に対して企業は投資をすることが難しく、β-グルカンもベタインも、その技術を世に届けられていませんでした。

そんななか、コロナ禍となる直前の時期に、国立研究開発法人科学技術振興機構が主催する大学のもつ技術シーズを集めた展示会「大学見本市」にブースを出展したところ、企業の商品開発担当者をはじめ、多くの方々から「購入したい」という声をもらいました。「これは自分で社会実装に向けて動かないといけないかもしれない」と思い、2020年から会社の設立に向けて動き始めました。

その後、2021年に大学発の技術をもとに事業化を目指すプログラム「バイオテックグランプリ」で最優秀賞を受賞。それをきっかけに甲南大学が大学発ベンチャーの認定制度を整備し、後押しを受けるかたちでB-Labを創業しました。会社設立の間もないタイミングで、研究を通じてつながりのあった企業から大きなロットのオーダーをもらったので、過去の実績をもとに日本政策金融公庫から融資を受けて設備投資に充て、製造・販売をスタートしています。

幅広い協業で、積極的に新しい技術を開発

──ビジネスモデルについて教えてください。企業とはどのように取り組みを進めているのでしょうか。

β-グルカンもベタインも、独自技術をもとに自社で製造して企業向けに販売しています。当初は化合物の受託合成メーカーに製造を頼もうと考えていたのですが、外注費や製造量が希望に見合わなかったため、自社でまかなうことにしました。

協業する企業とはまず、共同開発を進め、技術をどのように使うかを検討します。その後、使用方法が定まったところで、自社で製造したβ-グルカンやベタインを販売しています。現在は会社のメンバーが私のみのため、これらのステップをひとりでまわしています。

会社を立ち上げてから、新たに声をかけてもらう企業も増えています。今年の1月には化粧品関連の展示会に出展して、そこから20社ほどの企業とのお取り引きが始まりました。この夏には、サプリメント原料向けに加工したβ-グルカンの製造販売を始められるようになる予定です。販売開始後は追加で発注をもらいながら、さらに設備を増強して製造量を増やしていきたいと考えています。直近2年で達成したい目標ですね。

同じ技術に固執しても広がりが生まれないので、できる限りさまざまな企業とコラボレーションしながら、新しい技術を開発していきたいと思っています。最近だと、社会実証のコンソーシアムにメンバーとして加わり、ミドリムシ由来のバイオ燃料の製造技術の開発を支援したりしています。β-グルカンやベタインに限らず、自社のもつ技術を活用できるようなチャレンジを続けられればと思います。

独自技術を生かし、世界の社会課題解決を目指す

──B-Labの今後の展望を教えてください。

現在は海外の企業から問い合わせを受けて、動き始めようとしているところです。以前から海外向けの輸出について企業から相談を受けていて、5年ほど先には海外展開に着手しようと考えていました。しかし、先ほどお話しした化粧品関連の展示会でヨーロッパ、アメリカ、アジアの化粧品メーカーなどの企業とつながり、話が前倒しで進み始めた格好です。ただ、会社も立ち上がったばかりなので、少しずつ設備を増やしながら着実に展開を進めていこうと思っています。

現在は大学のキャンパスに拠点を設けて設備を揃えていますが、ゆくゆくは工場を建てるなどの大型の設備投資が必要になります。その際には、銀行からの融資などで資金をまかないたいと考えています。エクイティでの資金調達はいまのところ考えておらず、IPOも予定していません。そもそも会社を立ち上げたのは、大学やこれまで共同研究をしてくれた企業への恩返しが目的なのです。技術の特許が切れるまでの期間に、上手く社会実装して売上を生み出すことが、B-Labでやっていくべきことだと考えています。

β-グルカンによる成分の水溶性の向上は、世界で飢餓や低栄養に苦しむ人々に、少量で必要な栄養素を摂取できるサプリメントの開発などに役立てられるかもしれません。ベタインは、廃棄物から医薬品中間体などの化合物を抽出することで、それまでゴミとされてきたものに付加価値を与えることができます。これらにより、サーキュラーエコノミーの実現に寄与できると考えています。

既存技術による社会課題解決への貢献も目指しながら、新しい技術の開発を進め、生まれた成果はどんどん事業化していきたいですね。

interview & text by Tomoro Kato / photographs by Yuki Sato / edit by Kento Hasegawa

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