【Ambitionsビジネス酒場】(後編)JR九州・古宮社長が社内で実践するDX術とは?

Ambitions FUKUOKA編集部

悩みを抱えるビジネスパーソンが、大企業のトップに悩みを相談する「Ambitionsビジネス酒場」。今回はJR九州の古宮洋二社長に、福岡のビジネスパーソンがお酒片手に相談します。 記事後編、お酒の勢いがついてきた3名の相談の様子をお届けします。

古宮洋二

九州旅客鉄道株式会社 代表取締役社長


ビジネス酒場の過ごし方

・ひとりずつ、お酒1杯分(10分程度)の時間で、古宮さん悩みを相談する
・古宮社長と相談員の「乾杯!」から相談スタート

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焼き鳥盛り合わせ

【四杯目】スパイサー仲本さん「スタートアップの悩み“後継者育成”の方法は?」

Web広告事業やSNS支援事業を行っているスパイサーの代表・仲本さん。銀行員から経営者へ転身した仲本さんの悩みは「後継者育成」です。

仲本雅至

株式会社スパイサー 代表取締役

仲本 私は去年8月までみずほ銀行の行員として8年間東京で働いていました。4年前、みずほ銀行が副業を解禁したことをきっかけに副業起業し、事業売却をきっかけにみずほ銀行を辞めて経営者一本で勝負しています。

経営者になって実感しているのは、全ての権限が僕に集中しているのは危険だということです。早めに後継者を育てたいと考えているのですが、後継者候補はどのように育てたらいいのかを教えて欲しいです。

古宮社長 ビジネスパーソンの育成のためには、本人の畑とは違う仕事をさせたいなと思っています。私が運輸部長時代、毎週何十件も寄せられる、お客様の声や現場から上がってくるヒヤリハットの解決に取り組んでいました。

当然、部長の私一人では限界があります。しかし、運輸部は車両メンテナンスなど技術的な仕事をメインとする部署のため、多くの社員は解決方法を知りません。そこで「古宮教室」称して、若い社員に僕の経験や知識を伝え、業務をお願いするようにしました。たとえ心配でも、若手を信じてやってみると、成長し、自ら学ぶようになり、活躍してくれました。

リーダーの使命とは、経験の少ない社員に対して自分の経験をすべて教えていくことです。そういった考えで育てていくのはいかがでしょう。

仲本 ありがとうございます。もう一つ、Z世代との関わり方がわからないという悩みがあるのですが、古宮社長がZ世代と関わるときに気を付けていることがあれば教えて欲しいです。

古宮社長 私は世代を全く意識していません。ゆとり世代はダメだと言われていましたが、全くそんなことはない。世代を一括りにして扱うのではなく、個々を見るべきだと思っています。

仲本 なるほど、愚問でした!(ぐびっとグラスを煽る)


【五杯目】S社 松本さん「九州でDXの重要性をもっと伝えたい」

続いては、企業のDXを推進するサービスを提供しているS社のカスタマーサクセス部 松本さん。福岡支社のカスタマーサクセスを担当し、九州のさまざまな企業の方と日々向き合っている中で、どうしても相談したい悩みがあるそうです。

松本

S社 カスタマーサクセス

松本 当社は主に営業業務のDXサービスを提供しているのですが、DXはやってみないとその価値がわかりにくい事があり、なかなか導入が進みません。DXの価値をどのように伝えるといいのか、悩んでいます。

古宮社長 DXはデジタル化だと思われがちですが、デジタル化はあくまで手段であって、目的は仕事のやり方を変えることですよね。目的と手段をはっきりさせた上で、成功事例を示すのが良いのではないかと思います。

松本 九州はアナログな業務に対して問題意識を持っていない企業も多いと感じます。

古宮社長 九州はこれから人口が減少するのだから、DX化を進めないと企業は必ず立ち行かなくなります。DX化したくなければ、人を採用する以外に方法はないけれど、人口減少社会での人材採用は相当難しくなる。もはや、企業のDX化は必須なんですよね。

当社も将来に向けてDXを進めていますが、中には「なぜ自分たちが長年やってきたことを機械がやるんだ」という意見も出ます。

例えば、鉄道事業では線路の点検作業が欠かせませんが、これの機械化を進めようとしたときにも反対意見がでました。「少しのズレも許されないのに、大丈夫か」と。だけど、真夏の炎天下で線路を歩き、緩んだボルトがないか点検する作業を続けていたら、若い社員はみんな辞めるでしょう。人間がやるべき部分もあれば、機械化できる部分もあるはず。そこをデジタル化し、業務の負荷を軽減すべきです。

これは、社員の危険度を下げて鉄道の安全を守ることにもつながります。これがDXだと思っています。

松本 なるほど、ありがとうございました。

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たたききゅうり&野菜炒め

【六杯目】ユーザベース釘宮さん

ラストオーダーは、SaaSやNewsPicksの運営などを行うユーザベースの釘宮拓冬さん。春から所属が変わり、新たなチームでプロジェクトに取り組んでいるそうです。チームが一丸となって目標に進むためのテクニックとは。

釘宮拓冬

株式会社ユーザベース NewsPicks法人事業部(SBD事業部)

釘宮 私は今、チームで一体となって新しいプロジェクトに取り組んでいます。その時、皆で同じ目標や方向を見ることが必要だと思いますが、どのようにすればいいのでしょうか。

古宮社長 私は何事も「言葉」にして伝えるということを大切にしています。ちなみに、今年の年始に社員に伝えたキーワードは「自分で考える」です。

10人チームみんなで何か考えようとすると、その中の2人くらいしかちゃんと考えないものですよね。だから「皆が考える」ということに取り組もうと、考えること自体を言葉にして明確に伝えました。

釘宮 みんなが考えると、たくさんの衝突も起きると思います。それをうまくまとめて意思決定をする方法は何でしょうか。

古宮社長 小さな組織として、目標を立てることです。だいたい、大きな組織の目標は皆あまり考えづらいものです。ひとりひとりが自分ごとだと思える、チームの目標です。

実は、当社でも今年度から職場単位で収支を見るようにしました。

たとえば、レールを保守しているチームは、メンテナンスコストを使いますが収入は0です。だけど、チームが頑張ることで会社の数億円の収入につながっていきますよね。このチームには「当社全体でいくらの売上」というのではなく、業務にあわせた目標を立て、管理と改善を目指してもらってます。

京セラ創業者の稲盛和夫氏による、全員参加経営の「アメーバ経営」の考えですね。小さい単位での目標をしっかり持たせることが、とても大切だと思いますよ。

釘宮 なるほど。ちなみに私はまだ若手の立場なのですが。リーダーではなくいちメンバーとして、チームの成功に貢献できることは何でしょうか。

古宮社長 一対一の会話を増やすことです。約25年前、私は北九州で221人の運転士のボスをしていました。運転士の勤務はバラバラで乗務している間は職場にはいないため、職場をまとめるのは簡単ではありません。

そこで私は常にアンテナを張り、「Aさんは今朝奥さんと喧嘩して家を出たらしい」といった話を聞いたら、その社員が乗務する列車に添乗し、話をするようにしていました。もちろん運転中は話せないから、折り返しの駅で5分10分程度です。しかしそれを繰り返すうちに、距離が縮まり、コミュニケーションも活性化していきました。

対話を重ねて信頼関係をつくっていくことが、チームの力になっていくと思います。

釘宮 とても勉強になります。最後に、仕事とは関係ないのですが、生きていて一番楽しいことは何でしょうか?

古宮社長 今は孫を抱っこしているときです。

釘宮 最高ですね! ありがとうございます。


縁もたけなわ、「Ambitionsビジネス酒場」の閉店時間です。

今回は6名のビジネスパーソンの悩みを紹介しました。

次回の開店をお楽しみに。

text by Tomomi Tamura / photographs by Yasunori Hidaka / edit by Keita Okubo
協力:やまちゃん 中洲店 撮影協力:WeWorkゲイツ福岡

#働き方#DX

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100年に一度といわれる大規模開発で、大きな変革期を迎えている、ビジネス都市・福岡。次の時代を切り拓くイノベーターらへのインタビューを軸に、福岡経済の今と、変革のためのヒントを探ります。 また、宇宙ビジネスや環境ビジネスで世界から注目を集める北九州の最新動向。TSMCで沸く熊本をマクロから捉える、半導体狂想曲の本質。長崎でジャパネットグループが手がける「長崎スタジアムシティ」の全貌。福岡のカルチャーの潮流と、アジアアートとの深い関係。など、全128ページで福岡・九州のビジネスの可能性をお届けします。