
関西電力株式会社の社内ベンチャー制度「かんでん起業チャレンジ」から事業化した、地場企業の経営層×求職者のマッチングサービスを提供する株式会社ソコナラ。福岡で生まれ育ち、大阪でキャリアを積んだ三宅庸介氏は、なぜUターンして社内起業に取り組むのか。ビジネスストーリーを聞いた。

三宅庸介
株式会社ソコナラ 代表取締役CEO
福岡県出身。大学在学中はバンド活動にあけくれ、大学院修了後は関西電力に入社。人事ソリューション整備、水素船に関わる特許取得などを経験したのち、社内ベンチャー制度を活用して社内起業。地元・福岡で「ソコナラ」を立ち上げた。
キャリアに悩み続けてきたからこそ、人生を変えるキャリア支援ができる
九州大学大学院を修了後、関西電力で18年のキャリアを重ねた三宅氏。キャリア支援の事業を立ち上げた背景には、キャリアに悩み続けた自身の経験があったという。
「僕は子どもの頃から『夢』と言えるものがなかったんですよ。進路は周囲に流されて理系を選ぶも、就職は営業職。入社2年目から福岡に帰りたいと思っていましたが、いつの間にか時が過ぎていました。今のままでも幸せだけど、本当に自分のやりたいことは何なのか……」
脳裏に甦ってきたのは学生時代、バンド活動に熱中していた記憶。当時の熱気や充足感を超える人生に挑戦したい。そんな思いで、三宅氏はキャリアコンサルタントの資格を取得。「自分のようにキャリアに悩む若い人に伴走することで、人生を切り拓くヒントになりたい」と、キャリア支援事業を立ち上げた。
「ソコナラ」は、地場企業の経営層と求職者が、リアルの場で意見交換する転職支援サービスだ。時短・効率化の時代に、わざわざ対面にこだわった。

「I・Uターンで転職された方々にヒアリングを行うと、かなりの人から『経営者から誘われた』『経営層の話を聞き、共感した』という声を得られたんです。普段の転職活動の中では、経営層と出会い、会話する機会なんてそれほどありませんよね。私たちが支援することで、その人の人生を変えるような、魂を揺さぶる出会いを生み出したいんです」
福岡の面白い企業×熱量の高い人材。ワクワク感のある偶発的出会いをつくる
実証を重ねて手応えをつかみ、2024年7月に社内ベンチャーとしてソコナラを立ち上げた。イベント「ソコナラMEET」の開催を通して、サービスの磨き込みに取り組んでいる。
「ソコナラMEETは、3〜5社の経営層と転職希望者20〜30名程度による、参加型のイベントです。まず経営層による自社のプレゼンがあり、その後に転職希望者を数グループに分けて、自身のキャリア観や、気になる企業について語り合うワークショップを実施。登壇した経営層が各グループを順番に巡り、コミュニケーションを図ります」
企業との出会いを目的とするイベントだが、ソコナラMEETでは、登壇する企業名が、当日まで参加者に知らされない。
「合同説明会などの大規模な転職イベントだと、結局自分の知っている企業ばかりを見てしまうんですよね。そうではなくて、“知られざる福岡の面白い企業”があることを知ってほしいんです。企業の知名度ではなく、出会いが人生を変える。そんな偶発性を意図的に組み込んでいます。
企業名をシークレットにすることで、参加者は『どんな企業に会えるんだろう』っていうワクワク感を持って来てくれる。同時に、参加者が行動力と熱意のある人に絞られます。企業側からは『ソコナラには、熱量の高い人材が集まっている』という感想をいただいています」
現在は立ち上げ期ということもあり、登録企業数は10社程度に限定。老舗の桐箱メーカーや運送会社といった地場企業から、地元の名物を製造販売する食品メーカー、さらにはITスタートアップまでさまざまだ。どのようにして福岡の経営層を見つけているのだろうか?
「基本的には、人の紹介です。魅力的だと感じた企業さんへ伺い、話を聞き、そこでまた面白い方を教えていただく。企業の変革を担う後継ぎの方や、地域から世界を見据える高い視座を持つ方など、福岡にはWEBでは情報を得られない魅力的な方が、たくさんいらっしゃるんですよ」
三宅氏は「まだPMFを目指す段階」と話すが、成果はすでに目に見える形で生まれている。
「直近では転職により、糸島市から柳川市、佐賀から福岡へ引っ越された方がいて、より良いキャリアの構築に寄与できていると、嬉しく思っています。実際にヒアリングしても、直接経営層と会って話したことが決め手になったという声が多い。人を動かすのはやはり人との出会いなのだと実感しています」
コンパクトシティだからこそ、濃いつながりが生まれやすい
現在、ソコナラは1期目。九州に特化しつつも、今後は関西電力とのシナジーも見据える。2029年には範囲を九州から全国に広げて、参加企業380社を目指す。約18年ぶりに福岡に腰を据え、ビジネスに熱中する三宅氏は、改めて地元の心地よさを感じているという。
「福岡の魅力は、程よい規模と温かさ。皆さんに受け入れていただき、まだ半年ほどの活動ですが、ビジネスの交流会に行けば多くの知り合いがいる、という状態になりました。時にはビジネス度外視でソコナラを応援してくださることもあり、人と人とのつながりから、何かが生まれる気配を感じています。
AIによって、世の中の課題にある程度の解答が出せる時代になりました。でも、個人のキャリアの変容には、偶然という変数があるもの。福岡という、人々が集まり、偶然の出会いが生まれやすい都市は、これからの時代に、むしろ価値を増していくと感じています」
サービス紹介:ソコナラ
地域の企業経営層と転職希望者による仮想転職ワークショップ「ソコナラMEET」の開催と、企業の経営層インタビューを軸とした企業紹介メディア「ソコナラWEB」による、偶発性のあるキャリアマッチングを行う。
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text by Michiko Saito / photographs Shogo Higashino / edit by Keita Okubo

Ambitions FUKUOKA Vol.3
「NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!」
福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。