【松口健司】新時代のスタートアップを創る。若手起業家が目指す、人と人をつなぐ「ハブ」という存在

Ambitions FUKUOKA編集部

年齢やポジションに関係なく「異種」な人々が「交」わるイベント「明星和楽」。2011年に福岡市でスタートしたイベントは2023年で17回目を迎え、同年12月には台湾でも開催された。 その実行委員長を務めているのが松口健司氏。大学休学中に株式会社サイノウを共同創業。若手起業家として自身もビジネスを立ち上げながら、イベントを通してスタートアップを支援してきた。見据えるのは人と人、企業と企業、人と企業をつなぐ福岡のハブという存在になることだ。 ※本記事は『Ambitions FUKUOKA Vol.1』(2023年11月14日)の転載、一部編集したものです

松口健司

明星和楽 実行委員長

20歳の時にシリコンバレーに短期留学し、大学休学中に株式会社サイノウを共同で立ち上げる。2017年よりスタートアップを中心としたビジネス創出イベント「明星和楽」の実行委員長を務める。NewsPicks「Re:gionピッカー」としても活動中。

官民一体の希有なスタートアップイベント「明星和楽」

スタートアップ都市宣言がされた福岡を代表するイベント「明星和楽」。今でこそ多様なバックグラウンドを持つ異業種が集まる自由でグローバルなイベントだが、スタートは有志によって行われた音楽イベントだった。

イベントは時を重ね、形態を変えつつ10年以上続いてきた。実行委員長を務めている松口氏は、この希有で柔軟なイベントが続いている理由を次のように語る。

「イベントを継続できた背景は、福岡が他の地域よりも官民一体の根強いスタートアップコミュニティが形成されているからです。明星和楽はスタートアップコミュニティのひとつの形だと言えます。

民間企業だけではなく福岡市も一緒になってスタートアップを盛り上げようと参画しています。民間と行政がバランスをとりながら、協力しあってスタートアップのエコシステムをつくってきました。このような地域は世界的にも珍しいと思います」

米国で体感したスタートアップ思考

松口氏がスタートアップに関心を持ったのは大学2年の20歳の頃。米国シリコンバレーに短期留学するプログラムに参加したのがきっかけだった。

プログラムでは現地で働いている日本人起業家やアップルで活躍する社員、カリフォルニア州のスタンフォード大学に通う学生らと交流した。その中で、スタートアップのエコシステムについての思考や可能性に関心を持ったという。

「彼らから今取り組んでいることや物事の考え方を聞いて、価値観がガラッと変わったんです。スタートアップってすごく面白い分野で、地域を発展させる可能性があると感じました」

その後、帰国した松口氏が生まれ育った九州で起業を決意。2014年、福岡市では時を同じくして創業を支援する「スタートアップカフェ」が国内で初めて創設されるなど、スタートアップ支援が本格化していたことも追い風となった。

帰国後、学生が社会で活躍している大人を取材するメディアLoqui(ロクイ)を設立。スタートアップのコミュニティに飛び込んで取材する中、出会ったイベントが「明星和楽」だった。当初は取材者として参加していたが、有志による柔軟なイベントに可能性を覚え、運営を手伝うように。そして2017年からは実行委員長という、文字通りスタートアップコミュニティの顔になった。

「ちょうど世代交代の時期でもありました。明星和楽は福岡市と民間コミュニティがつながる場です。若い世代と中堅世代を仲介する役割になってもいいと思って引き受けました」

次世代が自由にチャレンジできる環境を目指して

明星和楽を運営して7年目。松口氏が実行委員長になってから明星和楽のコンセプトを「異種交創」にリメイクした。年齢やポジションに関係なく、「異種」な人々が「交」わる場を設けることを掲げた。普段交わらないような人々が交わり、何かを創り出す機会になることを目指した。

2019年に福岡市内で開催した13回目の明星和楽では海外の起業家ら約50名が参加。ブースを構えたり、ピッチコンテストをしたり、グローバルな出会いの場も実現させた。

イベント運営に携わる中で感じていることは「自分が若い世代と中堅世代をつなぐハブのような存在になることだ」と語る。

「良くも悪くも前例を打ち壊すみたいな雰囲気は大事だと思っています。若い世代は上の世代の人たちが言ったことは正しいと思ってしまいます。なので、誰かが率先してそれを壊していかなければならないと思っています」

次の世代がスタートアップの世界や福岡でのびのびとビジネスができる環境をつくりたい──。松口氏自身が上の世代から寛容で自由に挑戦させる機会を与えてもらってきたからこそ感じていることだ。

「若い世代がこんな事業をやりたいと言った時、行政だったり、上の世代の力だったりが必ず必要になります。私もそうでした。その先輩たちからのバトンを受け継いで、若手の活躍できる場所をつくれるような、人と人をつなぐハブのような存在を目指しています」

福岡から海外進出を後押しする存在に

2023年の12月には台湾を舞台に開催した。コロナ禍で海外のスタートアップコミュニティとの交流が活発にできなかった。アフターコロナで、今回6年ぶり、3回目となる。台湾での開催で松口氏が目指していたのは現地コミュニティとのつながりの活性化だ。福岡と台湾のそれぞれのスタートアップコミュニティ同士が交流を深めることで、海外事業進出に挑戦する人を後押ししたいと考えている。

「今の福岡スタートアップができていないのが海外への進出です。海外に親友がたくさんいれば、最終的にビジネスにつながってくることは多いと思います。今年の明星和楽はそんな場であってほしいです。アフターコロナで海外との交流も盛んになると思います。福岡から海外に進出するスタートアップを支援するきっかけ作りに挑戦していきたいです」


Fukuoka's Future Forecast 福岡の未来予想

福岡が九州をワクワクさせる

若い世代が福岡から東京に出ていくように、福岡からアジアに出ていく選択肢が広がっています。福岡がますます九州全体をおもしろくする存在になっていると思います。

text & edit by Taichi Higa / photograph by Yasunori Hidaka

Ambitions FUKUOKA Vol.2

Scrap & Build 福岡未来会議

100年に一度といわれる大規模開発で、大きな変革期を迎えている、ビジネス都市・福岡。次の時代を切り拓くイノベーターらへのインタビューを軸に、福岡経済の今と、変革のためのヒントを探ります。 また、宇宙ビジネスや環境ビジネスで世界から注目を集める北九州の最新動向。TSMCで沸く熊本をマクロから捉える、半導体狂想曲の本質。長崎でジャパネットグループが手がける「長崎スタジアムシティ」の全貌。福岡のカルチャーの潮流と、アジアアートとの深い関係。など、全128ページで福岡・九州のビジネスの可能性をお届けします。

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