「福岡愛」を原動力に 日本IBMとふくおかフィナンシャルグループが考えるローカルDX

Presented by 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス

Ambitions FUKUOKA編集部

日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)と株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG) は、2022年、FFGのDX推進を目的とした戦略的パートナーシップ契約を締結し、現在長期的なDXプロジェクトに挑んでいる。その背景には、共に福岡の金融を支えてきた信頼関係と、福岡エリアヘの「愛」があった。プロジェクトの現在地と、DXによる地域貢献のビジョンを聞いた。 ※本記事に掲載の内容、肩書などは、2023年8月取材時点のものです。インタビュー中の社名への敬称は省略します。

松尾美枝

日本アイ・ビー・エム株式会社 常務執行役員、IBMコンサルティング事業本部 戦略担当

北九州市出身。1987年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。監査法人・日本企業米国法人勤務を経て、 2001年日本IBMのコンサルティング部門に再入社。テクノロジーを活用したプロセス変革を実施する事業部責任者などを歴任。

藤井雅博

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 執行役員 DX推進本部長

1991年福岡銀行入行。2021年に執行役員総合企画部長、ふくおかフィナンシャルグループ執行役員経営企画部長を経て、2022年より現職。グループのDX戦略を指揮する。

井上裕美

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役執行役員、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 代表取締役社長

2003年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。官公庁デリバリー・リーダー、日本IBMグローバル・ピジネス・サービス事業本部の官公庁サービス事業部理事を歴任。2020年7月、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス代表取締役社長に就任。2022年日本IBM取締役に就任。

実は、福岡と深い関わり。ローカルとグローバルがタッグを組む理由

──1877年の創業から九州の金融を支えてきたFFGと、世界的なグローバルIT企業である日本IBM。2社が福岡で共にDXに取り組む背景をお教えください。

藤井氏 さかのぼると1970年代、福岡銀行にオンラインシステムを導入したとき、基幹システムの構築・運営を担当していただいたのが日本IBMでした。当時は大切なベンダーさんという位置づけでしたが、2003年に取り組んだ、他行との基幹システムの共同化プロジェクトにおいて、開発・保守・運用まで幅広く担ってくださってからは、ただの受発注の関係性を超えて、定例的な会議や人材の行き来が活発になりました。

長く一緒に働いていると、互いに銀行員か日本IBMの社員かわからなくなってくることもあるほどです(笑)。

井上氏 実は日本IBMと福岡県、特に北九州市は深いご縁があります。北九州市を代表する企業のTOTO株式会社を創業した森村グループ、その中核企業だった株式会社ノリタケカンパニーリミテドが、1925年に日本で初めてIBM統計機を導入したのです。これが日本IBMの創業につながったこともあり、北九州市に深い縁を感じています。

世界水準の知見やスキルを福岡エリアで実装する

──2社が協力して推進しているFFGのDXについて、お教えください。

藤井氏 FFGの経営理念は「人々の最良な選択を後押しする金融グループ」です。ブランドスロ ーガンに「あなたのいちばんに。」を掲げ、「いちばん身近な」「いちばん頼れる」「いちばん先を行く」存在を目指しています。その実現のために、DXは非常に重要なテーマであると捉えています。

これまでFFGでは、スマートフォンを活用した新しい金融の形として「Wallet+」を提供する「iBankマーケティング」をFFG本体の外に出島として設立し、次世代型のマーケティングを試行。さらに発展させる形で国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」を設立し、デジタルネイティブ世代を主な対象として、金融サービスの新たなカタチを追求するなど、挑戦的な取り組みを行ってきました。

その経験を生かし、グループの核である銀行業務をDXし、全社的に展開していきたいと考えています。世界の最先端技術を持ち、同時にFFGの業務をよく理解している日本IBMさんとパートナーシップを結ぶことが最適だと考えました。

──具体的な取り組みはいかがですか。

藤井氏 まず2023年7月、個人向けの「福岡銀行アプリ」と、10月には法人向けのポータルサイトをリリースし、デジタルチャネルを構築しました。これによってお客さまの行動や反応を正確に分析することができるようになります。データをもとに、お客さまが本当に求めている機能を追加したり、さらに付加価値を生み出したりと、どんどんブラッシュアップしていくつもりです。

松尾氏 日本IBMはこれまでFFGの基幹システムの開発・運用を行ってきましたが、慎重さが求められる基幹システムと今回のDXでは、アプローチが異なります。DXにおいては社会やお客さまの変わりゆくニーズに応じて、新しいサービスを即座にリリースしなければなりません。クイックに試してOKなら進めて、ダメなら次のやり方を試すといった“アジャイル的”なアプローチです。

一般的に、お客さまの資産を預かる銀行さんは非常に慎重に安全に進める文化が根付いており、アジャイル的な思想を取り入れることに苦労されるケースが多いものです。しかしFFGはグループ理念に「失敗を恐れない行動力」が掲げられており、DXを進める土壌ができている希有な存在だと感じています。

藤井氏 既存の固定観念を変えるところから始めなければ、銀行のDXはなかなか進みません。今回のプロジェクトでも、FFGの企画者やエンジニアが日本IBMと何度も粘り強く話し合いを重ね、開発を進めてきました。新しい思想を取り入れて実行できたという成功体験をもとに、今後はよりアジャイル的な開発を強めて共に企画・開発を繰り返していきたいですね。

松尾氏 日本IBMの強みは、グローバルとつながっていることです。国内はもちろん、グローバルの先端事例に取り組んでいますので、常に最新の知見やスキルを保持しています。そしてそのグローバルの事例を、福岡のDXプロジェクトで活用できる。特に昨年、北九州市に「IBM地域DXセンター」が開設したことで、この仕組みが一層整ったと自負しています。

金融機関のDXの先に、地域経済の成長がある

──FFGのDXは、未来を見据えた長期的なプロジェクトと伺いました。今後の展望についてお教えください。

藤井氏 私たち地域金融機関は、自己の成長だけを目指すのではなく、地域の活性化・発展に貢献する使命があると考えています。FFGのDXの先には、地域の人々や企業の金融体験の向上があり、地域に根ざしたあらゆるセクターの成長を支えることができると考えています。

また近年は、利便性の高いデジタルサービスを提供するナショナルブランド、グローバルブランドが地域にも積極的に進出し、銀行をはじめ地場の様々な業種に攻勢をかけています。その中でお客さまにFFGを選んでいただくためには、地域ならではの価値を打ち出す必要があります。その起点となるのが今回構築したデジタルチャネルです。

DXによって地域のステークホルダーとつながり、地域のために役立つ、地域ならではのサービスをつくり上げたい。例えば、エリアを限定したサービスの提供など、地域経済の好循環が生まれる仕組みを構築できたらと考えています。FFGだけでなく地域のステークホルダーと連携し、共創して実現していきたいですね。

松尾氏 地域経済において、行政や企業、大学、住民など全てをつなげられるのは、地域の金融を支えてきた金融機関しかいないと、改めて感じています。地域全体を巻き込んだ壮大な構想を、ぜひ成功してほしい。我々もITの分野でサポートしていきたいです。

──地域への貢献という意味では、先ほど松尾さんがお話しされた「IBM地域DXセンター」も、ただの開発拠点にとどまらない存在です。地域におけるセンターの役割についてお教えください。

井上氏 「IBM地域DXセンター」は、地域において高度なシステム開発・運用を行う拠点であり、地域のお客様や企業との共創を目的としています。現在全国7カ所に展開し、2024年末までに社員や地域パートナー企業を含めて2500人規模の雇用を創出する見通しです。

FFGの根本にある「共創」という考え方は、まさに私たちが地域DXセンターを立ち上げるときに意識していたことと重なります。地域に根差している企業や住民の方とコミュニティをつくらなければ、継続的な発展は得られません。地域にセンターがあることで人が集まり、仕事が生まれて、人が成長して、さらに仕事や人や企業が集まってくる。持続性のあるエコシステムを生み出して、地域経済に貢献していきたいと考えています。

地域から日本を盛り上げるその原動力は「福岡が好き」

──最後に、福岡の地域経済に対する皆さんの想いや、今後の意気込みをお聞かせください。

藤井氏 福岡はもちろんですが、我々の地元である九州で、地域金融機関として主体的に動き、仲間をつくり、いろいろな方々を巻き込んで、地域経済の発展に貢献していきます。地域を活性化して盛り上げるというミッションを果たすために、日本IBMとも手を取り合い、これからも力を尽くしてまいります。

松尾氏 少子高齢化が進み、労働人口が減っていく時代、デジタルで社会を変えていかなければ日本は立ち行かなくなってしまうという強い危機感を抱いており、グループ総動員で日本中のDX に取り組んでいます。また、これまでの東京一極集中ではなく、地域から世界中とつながることができ、先端の技術を活用できる時代になった今こそ、地域でDXを実現する時代になったとも考えています。

そして個人的な話にはなりますが、私自身北九州市の出身なんですね。DXで大好きな地元に貢献できることをうれしく思いますし、強い想いもあります。もちろん私だけでなく、「IBM地域DXセンター」のメンバーはとても盛り上がっていますよ。

井上氏 「好き」という気持ちは、地域でDXを進めるにあたって大切なポイントだと思っています。「IBM地域DXセンター」で働くメンバーにも「福岡が好き」という思いがあふれています。仕事の枠を超えて地域とつながりたい、地域に貢献したい、もっと成長したいという思いを抱く人が集まることで大きなパワーが生まれて、地域経済への波及効果も大きくなると確信しています。

今回の取り組みが素晴らしいモデルとなり、全国に展開していければと思います。

地域でのDX人財創出+共創を実現する拠点 IBM地域DXセンター

日本アイ・ビー・エムデジタルサービスでは、2022年に「IBM地域DXセンター」を設立。2022年1月から札幌市、那覇市、仙台市、北九州市に開設し、2023年には広島市、高松市、長野市にも展開。最新技術を用いて国内外のシステム開発やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)を行うほか、地域企業とデジタル技術を活用して新たなビジネスを創出したり、自治体や企業・スタートアップ、教育機関などと連携し、地域におけるデジタル人財を育成したりする場として幅広く活動している。

代表取締役社長の井上氏は今回の取材で、特に地域の人財育成と雇用創出について言及。 「IBM地域DXセンターは、メンバーがDXのスキルを高めながら仕事に取り組むことのできる拠点です。IBMグループと合わせると、北九州と福岡の拠点には総勢数百人が在籍しています。自分の仕事が地域に貢献することは、やりがいにつながるものです。皆いきいきと働いています」(井上氏)。

地域に暮らすデジタル人財が、地域の課題をDXで解決する。場所に制限されない働き方が浸透した時代にマッチした新しい働き方であり、これからの地域発展の鍵を握る取り組みと言えるだろう。


株式会社ふくおかフィナンシャルグループのグループ3行で展開する「福岡銀行アプリ」「熊本銀行アプリ」「十八親和銀行アプリ」が、2023年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。

プレスリリースはこちらよりご覧ください。

Presented by 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス text by Emi Sasaki / photographs by Yasunori Hidaka / edit by Keita Okubo

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ビジネスマガジンAmbitions vol.5は、一冊まるごと「新規事業」特集です。 イノベーターというと、起業家ばかり取り上げられてきました。 しかしこの10年ほどの間に、日本企業の中でもじわじわと、イノベーターが活躍する土壌ができてきていたのです。 巻頭では山口周氏をはじめ、ビジネスリーダー15組が登場。それぞれの経験や立場から、新規事業創出の要諦を語ります。 今回の主役は、企業内で新規事業を担う社内起業家(イントラプレナー)50人。企業内の知られざる新規事業や、その哲学を大特集します。 さらに「なぜ社内起業家は嫌われるのか?」など、新規事業をめぐる3つのトークを展開。 第二特集では、新規事業にまつわる5つの「問い」を紐解きます。 「企業内の新規事業からは、小粒なビジネスしか生まれないのか?」「日本企業からイノベーターが育たない。 人材・組織の課題は何か?」など、新規事業に関わる疑問を徹底解説します。 イノベーター必携の一冊。そろそろ新しいこと、してみませんか?