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SBIホールディングス、九州電力、筑邦銀行の3社によるジョイントベンチャーとして2021年に設立した株式会社まちのわ。 「地域振興プラットフォーム」の構築を目指す同社を率いるのは、住信SBIネット銀行出身の入戸野真弓氏だ。 横浜で生まれ育った彼女は、なぜ福岡の地で「地域経済」の活性化に取り組むのか。まちのわが見据える「地域経済の未来」について聞いた。

入戸野真弓
株式会社まちのわ 代表取締役社長
神奈川県横浜市生まれ。三菱UFJ銀行、住信SBIネット銀行を経て、地域金融機関でデジタル戦略を担当。2021年5月、SBIホールディングス、九州電力、筑邦銀行の3社で株式会社まちのわを設立し、現職。
都会育ちのバンカーが「地域経済」の活性化に取り組む理由
「地域に人とお金を循環させる」というミッションを掲げる株式会社まちのわ。地域の商店街などで使えるプレミアム付商品券や地域通貨を電子化し、エリアごとの専用アプリで決済できる仕組みを提供。提供実績は福岡県を中心に全国100以上の自治体に広がり、最終目標である「地域振興プラットフォーム」に向け着実に歩みを進めている。
入戸野真弓氏は、三菱UFJ銀行で10年、住信SBIネット銀行で6年と、キャリアの大半を金融畑で過ごしてきた。また、横浜で生まれ育ち就職は東京と、九州とは縁もゆかりもなかった。なぜ福岡で地域経済を軸にした事業を手掛けることになったのか。

「福岡に来たのは2018年。SBIから筑邦銀行への出向という形でした。デジタル化を進めていきたい筑邦銀行の要請を受け、地域でのサービス展開を進めていたSBIから人を出すことになったんです。白羽の矢が立ったのが、メガバンクとネット銀行の両方を経験している私でした。
実は当時、私ひとりで子どもを育てていた母子家庭状態で、しかも中学受験を控えていたんです。これは無理かな……と悩んだのですが、家族や周囲のサポートもあって1年間出向することになりました」
平日は福岡で働き、毎週金曜に東京の自宅に帰り、日曜の最終便で福岡に戻る生活が続いた。当初は1年のつもりだったが、契約延長のオファーを受けて継続。家族と暮らす住環境を整え、気がつけば福岡在住7年目に入った。
入戸野氏が福岡に腰を据えることを決めた大きな理由が、地方銀行の可能性だ。地元の事業者と深くつながる地方銀行だからこそ成せることがある。筑邦銀行に赴任した当初から、やりたいことがどんどん膨らんでいったという。
「福岡での仕事が始まってすぐの頃、筑邦銀行の社史を読みました。久留米市に本店が設立されたのは昭和27(1952)年。戦後数年が経ち、物に対する需要が高まっていた時期で、地域の事業者の生産力を高めるための融資を行おうと、地元の商工会議所が中心となって設立されたんです。それを知ったときに『地元の事業者を支える』という地方銀行の存在意義を改めて感じました。ただ、現代の地域にはかつてのような強烈な消費需要はありません。融資だけではなく、地域の消費需要を喚起し、人とお金を呼び込む。それが現代の地方銀行のあり方なのではないかと考えました」
以降、入戸野氏は行く先々でさまざまな企業、事業者と地域経済活性化のための取り組みについて意見を交わした。その中で偶然、同じ思いを持つ九州電力の宮島真一氏と出会い、2021年に共同事業が立ち上がった。

地域内で経済が回る仕組みをつくり、地域に主権を取り戻す
まちのわの事業の軸は、次の2つ。「地域の住民に『外ではなく、地域の中で消費』してもらう」「地域の外からくる人たちに『その地域で消費』してもらう」。地域住民に対しては、前述のプレミアム付電子商品券を入り口として、地域で使えるクーポン券や食事券・ポイントなどを発行。地域に人とお金が回る「地域情報プラットフォーム」の拡大を進めている。地域外の人に向けては、2024年4月から「現地決済型ふるさと納税サービス」を開始。ゴルフ場などのレジャー施設や宿泊施設を訪れた際にふるさと納税を行い、その場で返礼品を「体験」として受け取るというものだ。
「プレミアム付電子商品券は、最初に福岡県のうきは市と太宰府市で販売をスタートしました。1次販売のときはなかなか売れなかったのですが、1カ月後の2次販売ではすぐに完売。おそらく最初に買ってくれた人がアプリの便利さを体感し、プレミアム付というお得感も相まって口コミが広がったのではないかと思います。また、地元の商工団体や、企業、自治体の協力も大きな力になっています。福岡は一つの出会いをきっかけに、新しいつながりがどんどん生まれていく場所で、いろんな人と話をしながら物事が形になっていく感覚がすごくおもしろいですね」
福岡では「地域の輪」「ひとの輪」をつくるベースは整いつつある。現在はその仕組みを全国へと広げていくフェーズに入っている。

「イメージしているのは江戸時代の『藩札』制度です。当時は各藩が独自に発行した藩札によって、領内の経済が成り立っていました。これにならい、地域の人々が主体となって『自分たちが暮らすエリアの経済をどうやって回すか』について考えることは、地方に主権を取り戻すことにつながると考えています。国は日本全体が向かうべき方向について考え、各自治体はある程度の裁量のなかで地域の幸せをつくっていく。そんな社会にできたらいいなと思いますし、私たちの取り組みで、目指す未来を実現したいです」
text by Noriyuki Enami / photographs by Yasunori Hidaka / edit by Keita Okubo

Ambitions FUKUOKA Vol.2
「Scrap & Build 福岡未来会議」
100年に一度といわれる大規模開発で、大きな変革期を迎えている、ビジネス都市・福岡。次の時代を切り拓くイノベーターらへのインタビューを軸に、福岡経済の今と、変革のためのヒントを探ります。 また、宇宙ビジネスや環境ビジネスで世界から注目を集める北九州の最新動向。TSMCで沸く熊本をマクロから捉える、半導体狂想曲の本質。長崎でジャパネットグループが手がける「長崎スタジアムシティ」の全貌。福岡のカルチャーの潮流と、アジアアートとの深い関係。など、全128ページで福岡・九州のビジネスの可能性をお届けします。