【福岡市長・高島宗一郎】スタートアップ都市・福岡、次の狙いは「アジアとの共創」

Ambitions FUKUOKA編集部

スタートアップ支援の先進都市として、全国から注目を集める福岡市。2012年には、高島宗一郎 福岡市長が「スタートアップ都市ふくおか」を宣言。官民による強固な連携で、スタートアップを後押しするさまざまな施策を実行してきたことが実を結び始めている。 さらなる飛躍への期待が高まる中、次の一手は何か。Ambitions FUKUOKAは、高島市長への独占インタビューを実施。スタートアップと行政の連携を実現した背景から、アジアとの共創にかける期待などについて伺った。

スタートアップ・ムーブメントを築いた「明星和楽」

本取材は、2023年12月16日に行われた「明星和楽2023 in台湾」で実施された。「明星和楽」とは、多様な価値観・バックグラウンドを持つ人々による“異種交創”をコンセプトに掲げるフェスティバル・イベント。2011年の初開催から回数を重ね、いまや福岡を代表するスタートアップのキーパーソンが集まるイベントへと成長した。

台湾では、これまでに2014年、2017年と開催。コロナ禍後初の台湾開催となる今回は、Netflixで公開されグローバルで大ヒットを記録したドラマ『サンクチュアリ -聖域-』の江口カン監督がゲスト出演するなど、事業共創や働き方、エンターテインメントと多様なテーマでセッションが繰り広げられた。

高島宗一郎 福岡市長インタビュー

「アジアとの共創は、スタートアップ都市のラストピースになる」

文化が異なる官と民の連携 高みを目指す共創のかたち

福岡市は「スタートアップ都市」を掲げ、10年以上にわたり支援に取り組んできた。その結果、スタートアップをはじめとする開業率が大都市圏の中で5年連続1位(※)、スタートアップを支援する福岡市内のファンド規模は約10年で4倍以上(約477億円・2021年)に成長するなど、全国から注目を集めるスタートアップ都市に成長した。 ※出典:「Fukuoka Facts」

その陣頭指揮を執るのは、高島宗一郎市長。今回、日本と台湾のスタートアップのキーパーソンたちが集う「明星和楽2023 in台湾」へ出演するため、現地を訪れた。


──まず明星和楽というイベントについて。地元発のスタートアップであるヌーラボの橋本正徳さんや、サイノウの村上純志さんらが中心となり、クリエイティブとテクノロジーの祭典として2011年に立ち上がりました。高島市長は第一回の2011年から定期的にご出演されています。

高島 ええ、2014年には台湾で開催し、その時も参加しました。当時は橋本環奈さんにも来てもらいましたね。この約10年間、福岡市は「スタートアップ都市」になるため、起業支援などさまざまな施策に力を入れてきましたが、この『明星和楽』というイベントの存在は、スタートアップ都市・福岡の文化の土台に、深く関わっていると感じています。

スタートアップやクリエイティブには、ある意味でレジスタンスというか、既存の権力に立ち向かう反体制的なパワーがあるものです。そのため、スタートアップと行政が深く関わることは珍しく思われることもあります。

「官民連携」の取り組みの多くでは、民の尖りが削られて“ダサい”ものになるケースが多いんですね。もちろん、官民のあいだで文化の違いがあることはわかります。

10年前、私は明星和楽をはじめとする場でスタートアップの皆さんに、「官がなければできないスケールの取り組みを目指そう」「互いにおもしろがって上を目指そう」と呼びかけ、握手したことを覚えています。

平成29年には福岡市を代表するスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」を都心部にあった小学校を再活用して設立しました。そこは、スタートアップはもちろん、一般の方も気軽に立ち寄れる施設となっていて、官民連携の好実例をご覧いただけます。

今回の『明星和楽』でも、運営をはじめスタートアップシーンを支えてきた方々と接する中で、改めて福岡の成長と、こうしたイベントの関係性の強さを感じました。

まもなく訪れる、福岡の「ティッピング・ポイント」

──約10年をかけ、福岡市は官民連携でスタートアップ支援に取り組んできました。その成果と、次の狙いについてお教えください。

高島 福岡市のティッピング・ポイント、つまり、緩やかだった成長曲線が爆発的に上昇する、そのポイントは近いと感じています。これまで多くの施策を通して、スタートアップ都市としての足腰の強化をジワジワと進めてきた結果、続々と福岡市内スタートアップにIPOが生まれています。また、ハード面の拡充も、まさに今、都心部のビル建替え促進プロジェクト「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」により、大きく進んでいます。

──スタートアップ都市として飛躍するのに必要なパーツがある程度揃ってきた、ということですね。

高島 はい、そしてその最後のスパイスが、僕はアジアにあると思うんです。

“リトルトーキョー”は目指さない ビジネスの可能性はアジアにある

高島 地方の都市が成長を目指す場合、目線の先には東京があることが多いかと思いますが、​​私はメガシティの真似をしなくていいと思っています。福岡の都市発展が、東京とは違う“福岡味”になるためのスパイスは何かというと、アジアです。

まちづくりや都市の方向性を検討するにあたり、私たちは歴史から学ぶことが多々あります。福岡という土地は、古くからアジアの国々との交流の拠点になり、日本とアジアをつなぐ役割を果たしてきました。それこそ歴史の教科書に載っているような時代からです。

時代と共に、船が飛行機になるなど手法は変わりますが、福岡がアジアと交流してきたことは昔から変わりません。ビジネスコストの面でも、アジアとの連携は福岡の強みです。長年続いてきた交流の文化は、簡単には崩れないでしょう。

──福岡市と台北市は、「スタートアップ国際交流支援に関する覚書」を締結しており、双方の企業が互いに進出しています。明星和楽でも多くの台湾のスタートアップとの交流が見られるなど、“福岡味”のスタートアップ都市としての具体的な光景を見ることができました。

高島 実は、台北市と関係が生まれたのも、10年前の『明星和楽 in台湾』でした。10年のあいだに、イベントに集まる人たちの世代交代は進みましたが、福岡と台湾のスタートアップのコミュニティはしっかり受け継がれており、お互いに温度感を知っている。そんな関係性が蓄積されていると感じています。これは心から素晴らしい成果だと考えています。

スタートアップ都市・福岡が選ぶ、独自の進化のかたち。そのさらなる加速に期待したい。

明星和楽 実行委員長・松口健司氏「国境を超えたつながり、確かに感じた」

明星和楽 実行委員長の松口健司氏は、今回のイベントについて次のように振り返る。

松口 日本と台湾の連携を求める声が多かったものの、近年はコロナ禍もあり思うような交流ができていませんでした。台湾での開催は6年ぶりでしたが、一般的なカンファレンスではなくカジュアルな雰囲気のイベントを目指しました。結果、国境を超えたつながりや交流が生まれていることを、確かに感じることができました。

また、今回は台湾在住の学生の方にもプロジェクトに参加してもらいました。若い人たちのつながりはこれから先、長く続くものだと思っています。それもひとつの成果だと感じています。

「明星和楽2023 in台湾」では、『サンクチュアリ -聖域-』の監督を務めた江口カン氏を招いたキーセッションのほか、「働き方」「共創」などをテーマに、日本と台湾の双方の視点を交差して語り合う複数のトークセッションを実施。夜のMeetup Partyまで、1日かけて日台のスタートアップの交流が行われた。

Ambitions FUKUOKA編集部では、福岡のスタートアップシーンの中心である「明星和楽」について、今後も注目していく。

「明星和楽2023 in台湾」のキーセッションレポートはこちら↓

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photographs by Satoshi Kondo / text & edit by Keita Okubo

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