2030年の地域経済、どう生き残るか。FDC石丸修平氏が語る「九州の未来」

Ambitions FUKUOKA編集部

日本の“一割経済”と言われる九州。 「スタートアップ都市」として脚光を集める福岡、半導体世界大手の台湾TSMCによる工場進出で沸く熊本など、近年ビジネスの話題に事欠かない経済エリアだ。その一方、九州は全国よりも早いペースで人口減少が進んでおり、早急な対応が求められている。 2030年、課題先進地域といえる九州は、どうあるべきか。 本記事では、九州の未来を担うビジネスリーダーたちが集まり、議論した「ONE KYUSHUサミット 宮崎」から、福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka Directive Council、以下FDC)事務局長・石丸修平氏による講演を記事化。 福岡を拠点に産学官民連携を実現してきたFDC石丸氏が見る、九州経済の未来とは。全国すべてのエリアに共通する「地域経済の未来」というイシューを届ける。 ※「ONE KYUSHUサミット 宮崎」(2024年1月12日)より

石丸修平

福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka Directive Council)事務局長

経済産業省、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)等を経て、2015年4月より福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長。アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、九州大学科学技術イノベーション政策教育研究センター(CSTIPS)客員教授、九州大学地域政策デザインスクール理事、九州経済連合会規制改革推進部会長等を歴任。

2024年、日本のデフレが終わり、約30年ぶりにインフレが進む

──FDCは、福岡内外の会員団体233(2023年12月12日現在)により構成される“Think&Doタンク”。地域経済のさまざまな課題に対して、複数のコンソーシアムを形成し、地域と企業等が共に解決に向けて議論・施策実行に取り組んでいる。2015年より事務局長を務める石丸氏は、アフターコロナに突入した今を、変化の時だと捉える。

「2023年、コロナ禍による混乱が収束すると予測されていましたが、振り返るとまさに、産業・経済の変化の年だったと思います。

インバウンドは回復の兆しを見せていますし、企業の設備投資の動きも戻ってきています。特に、ソフトウェア関連では、投資の機運は高まっています。企業が人材教育に予算を投じる動きも顕著になりました。値上げなどのインフレは、もはや生活の上で体感できるレベルになっていると思います。

円安に関しては米国との為替の差が大きな要因ではありますが、およそ30年間続いた日本のデフレがいよいよインフレに転じています。昨年時点での数字ですでにその動きが見えていますので、2024年、この傾向はより強まることでしょう。

また、九州の産業を見ると、今年は熊本に進出したTSMCの工場が稼働を開始します。九州の半導体の生産金額のシェアは、国内の4割(※1)を超えます。九州には全国に誇る強みがいくつもあり、それらのさらなる拡大に期待が集まっています」

(※1)IC(集積回路)生産金額は全国の約4割、半導体製造装置は同2割弱。出典:「九州における半導体関連産業の動向」(日本銀行福岡支店)

進む人口減少 ビジネスモデルの転換が求められる

アフターコロナに地域経済が沸く一方、避けては通れない問題が「人口減少」だ。九州の人口減は全国に先んじており、総人口は2000年の1,345万人をピークに減少し、2005年は1,335万人、2030年には1,123万人にまで減少する見通し(2005年から212.5万人の減少、15.9%減)だ(※2)。

(※2)出典:「地域に持続的な経済成長をもたらすための人材活用等に関する調査」(経済産業省 九州経済産業局)

「九州はこれから、人口が加速度的に減っていきます。2030年は2015年比で約150万人が減るというデータもありますので、ひとつの県が九州から消失するほどのインパクトになります。

人口減少に伴い消費市場が縮小し、医療介護サービスへの依存度が高まっていく。それに対応するため、ビジネスモデルの転換が必要となるでしょう。

九州はこれまで、優秀な理工系人材をはじめとする人材の競争力が大きな強みでしたが、人口減少により従来の優位性がなくなってきているのが現状だと捉えています」

地域経済存続の鍵は「一国の視座」を持つこと

「では、これからの未来、地域経済をどのように存続していくべきか。私は『九州全体で、一国の視座を持つこと』が重要になってくると考えます。

例えばコロナ禍では、感染防止のため、日本だけでなく世界で人の流れがストップしました。しかし、例えば九州は関門海峡と空港を閉鎖すればひとつの島となり、物理的にウイルスの侵入を防ぐことができる。であれば、九州という“国”の中では人の流動性を高め、経済を動かすこともできるわけです。

また、例えば九州と近い距離にある台湾と合意し、2つの地域だけで人材の流動を推し進め、経済を動かすといったことも一国の視座を持てばできるかもしれない。

九州はGDP(域内総生産)でも人口でも、世界30位程度の経済規模を持つ国に匹敵します。こうしたポテンシャルを考えると、九州は一つになって議論し、取り組みを進めていくことができる地域だと思うのです」

──九州が手を取り、ひとつの国レベルの経済を維持する。それこそ、今回のイベント「ONE KYUSHUサミット」の目指す未来だ。その方法として、石丸氏は産学官民の連携の重要性を次のように語る。

「もはや、官か民かといったひとつの担い手ですべてを実現できる時代ではありません。未来のためにどう取り組んでいくか、地域のマルチステークホルダーで議論し、取り組んでいくべきです。

例えば、新しいテクノロジーやサービスの社会実装実験の取り組みが挙げられます。地域として新しいチャレンジをどんどん受け入れて、失敗もどんどん共有していくといった取り組みが、求められるでしょう。

不確実性が高まる中、新しいものを受け入れて迅速に対応する、それを産学官民一体の体制で実現していくことが必要です」

──最後に石丸氏は、1枚のスライド資料を投影した。石丸氏の拠点である福岡から何重もの輪が九州の他の地域に広がる概念図。同氏がFDCの事務局長になるずっと前、20代の時に制作したものだという。

石丸氏が20代の時に作成した、ONE KYUSHUの素案といえる取り組みイメージ

「今、私は44歳ですので、もうかなり昔に描いたものです。“チーム福岡”という組織をつくり、産学官民一体となってステークホルダーをつなぎ、さまざまな施策を九州に波及させていく。そういったイメージなのですが……改めて見るとさっぱりわからないですね(笑)

しかし、今日お話ししたことや、この『ONE KYUSHUサミット』の取り組みは、僕の中ではこの時の考えの延長線上にあると思っています。

僕は昔から九州での連携を目指して取り組んできて、10年以上たった今、九州に思いのある方々と出会い、議論する場所が形になっています。

改めて、九州への情熱を大切にしていきたいですし、思いのある方々と一緒に、九州を盛り上げていきたいです」

九州広域経済の可能性を語りあう「ONE KYUSHUサミット 宮崎」

2024年1月12日、九州の南国・宮崎県宮崎市にて「ONE KYUSHUサミット」が開催され、九州の地場企業やスタートアップ、行政関係者など約350名が参加した。

イベントには、本記事で取り上げたFDC石丸氏をはじめ、本プロジェクト実行委員会を運営する一平ホールディングス代表取締役社長の村岡浩司氏、共催となった宮崎市からは清山知憲市長、近藤麻理恵(こんまり)のマネジメント&プロデュースを手がける川原卓巳氏ら、地域とグローバルのキーパーソンが集まり、これからの九州経済のあるべき姿を語り合った。

text & edit by Keita Okubo

#イノベーション#人的資本経営

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