スタートアップ成長の鍵はプロ人材? 人材活用最前線【HiPro MEET UP EVENT】

Presented by パーソルキャリア

Ambitions FUKUOKA編集部

労働人口が減少する日本では年々、人材獲得の難易度が高まっている。こうした現状を解決する一つの手法が、経験を積んだ“プロフェッショナル人材”の事業参画の促進だ。パーソルキャリアが運営する「HiPro」では、経験豊富なプロフェッショナル人材と地域の企業をつなぎ、地域企業・経済発展に貢献する「スキルリターン」に取り組んでいる。 企業×プロ人材の組み合わせでも、特に高いシナジーを期待できるのが、アイデアは先進的でもビジネス練度では大手企業に引けをとる「スタートアップ」だろう。その可能性とは。スタートアップ先進都市として知られる福岡を舞台に、スタートアップとプロ人材、両方の視点から、事業成長と人材の共創について探る。

※本記事は2024年2月7日「福岡スタートアップとプロ人材が出会う!MEET UP EVENT」を基に作成。

【Session1】スタートアップ×プロ人材で事業を成長させる

河野敬文氏

ヨクト株式会社 代表取締役

進 浩人氏

ナガク株式会社 取締役COO

橋本 司氏

62Complex株式会社 代表取締役 (Moderator)

スタートアップの正社員雇用は、リスクと背中合わせ?

──前半のセッションでは、副業人材を活用しているスタートアップ2社に話を伺います。ヨクトは2017年に、ナガクは2023年に創業されたスタートアップですが、副業プロ人材は活用されていますか?

 ボードメンバー以外は全員が業務委託の副業人材で、現在6名の方に関わってもらっています。

河野 当社では、僕以外は全員副業ですね(笑)。

──副業人材の方々は、住んでいる地域もバラバラでしょうか?

 東京・長野・福岡の方に業務をお願いしています。

河野 同じです。ヨクトはフルリモートで働けるので、副業の人たちの住んでいる地域はバラバラです。

──福岡という地域だけで十分な人材確保を目指すと大変ですが、それが副業ならば全国が対象になる。スタートアップにとっては良い環境が整い始めたということですね。

河野 創業期のスタートアップが正社員を雇用するのはリスクが高いので、プロ人材に副業で関わってもらうことはメリットしかありません。スタートアップも働き手も、副業という選択肢を取ることでお互いの相性をライトに試せるから、いろんなリスク回避にもつながると思います。

 特に、ここ数年でオンライン会議が普及し、フルリモート、フルフレックスの働き方が当たり前になりました。さまざまなツールによって業務の細分化やタスク管理もしやすくなっていますので、雇用形態にこだわらないというスタートアップは増えていると思います。

──副業人材にとっても、他社で働くことは自分の市場価値を知るきっかけになるため、非常にいい傾向かと思います。その一方、副業先と副業人材のマッチングはまだ十分とはいえません。スタートアップのお二人は、どのような手法で副業人材を迎え入れているのでしょうか。

 当社の場合は、X(旧Twitter)で声をかけたり、前職で同僚だった方に手伝ってもらったりと、リファラルがほとんどです。

河野 特にエンジニア人材はリファラルが多いですよね。バックオフィスの職種でも、一緒に働きたい方にX(旧Twitter)からDMを送り、最初から副業ベースで話をすると雇用につながりやすいです。

──副業の人の定着率はどうでしょう。

 当社は昨年(2023年8月)創業したばかりなので、副業の実績期間としては短いです。しかし、辞めた人はまだいません。

河野 当社でも、みなさん年単位で働いてくれています。

──定着率を高めるポイントがあれば教えてください。

 副業人材に対して、自社のプロダクトや事業、そして組織を好きになってもらうために、経営陣が時間を使うことだと思います。正社員ではない副業人材に対し、いかに情報やリソースを出し惜しみしないスタンスでいられるかがポイントではないでしょうか。

副業人材=外から声がかかる優秀人材

──副業人材と正社員の違いは何だとお考えですか?

 何も変わりません。企業と人との“関わり方”が違うだけという感覚です。むしろ、副業をしているプロ人材はスキルや信頼があって、世の中から求められている人たちです。つまり、「外から声がかかるほど優秀な人たち」というふうに認識しています。

河野 副業人材には、優秀な人が多いですよね。本業で安定した収入を得ているから、報酬を求める人よりも世の中に何かしらをアウトプットしたい、本業とは違うチャレンジをしたいという人が多い印象です。そのためスタートアップとは相性が良いです。

──職種によってマインドの違いはありますか?

河野 職種は関係ないと思います。スキルや経験を生かしたい人もいれば、経験はないけれど面白そうだから挑戦したいという人もいて、総じてポジティブな人が多い印象です。

 そもそも、スタートアップに関わろうとしてくれる人はチャレンジャータイプの人。そういう人たちが、副業でいい仕事と出会える仕組みを整えることで、人材の流動性がもっと高まればいいなと思います。

──副業は、世の中でまだ一般化しているとは言えません。福岡スタートアップが先んじて取り組み、全国のプロ人材に副業で関わってもらうことがスタンダードになると、事業成長のスピードが加速しそうですね。

河野 そう思います。だからこそ、リファラルだけでなく副業マッチングサービスも積極的に使って、良いご縁をつくっていきたい。そして副業先として選ばれる存在になるために、ひたすら面白い事業と仕事を作っていきたいと思っています。

【Session2】副業実践者が語る、副業活動のリアル

矢野恒氏

副業(九州電力株式会社 在籍)

飯田浩之氏

副業(西日本鉄道株式会社 在籍)

大久保祐介氏

元副業、現在はプロ人材(元株式会社電通)

大久保敬太

Ambitions FUKUOKA 編集長(Moderator)

副業のきっかけはコロナ禍

──後半のセッションでは、実際に「プロ人材」として「副業」に取り組まれているお三方へ話を伺います。ご登壇いただく皆さんは錚々たるキャリアの持ち主ですが、どのような経緯で副業を始めたのでしょうか?

矢野 私は3年前、45歳になったタイミングで始めました。大企業にいるとある程度キャリアの先が見えてくるんですね。例えば、「〇〇の役職までこのまま進むだろう、しかしその先はどこまでいけるだろう」というように。

45歳あたりでそれが見えてきたタイミングで、ちょうど会社に副業制度ができ、さらに知り合いのスタートアップから「手伝って欲しい」と声をかけられたのです。

──実際に、矢野さんのように社内の副業制度を活用されている人は多いのですか?

矢野 いえいえ、当社に在籍する約1万4000人の社員のうち、副業をしているのは10人程度。まだまだ少数派ですね。

飯田 私はコロナ禍のステイホームでまとまった時間ができたので、そうした時間にたくさんの本を読んでこれからの生き方や働き方を考えたことがきっかけでした。会社にいるからこそできること、やるべきこともたくさんあるけれど、会社を離れて新しいことにもチャレンジしたい、と。

当時はまだ副業制度がありませんでしたが、社会の動きから見て、そう遠くない時期に副業制度が導入されるだろうと思って、準備をはじめておりました。そして、2023年に会社に副業制度が誕生。すぐにたまたまご縁があった長野県のベーカリーで副業を始めました。

大久保 僕の場合は、副業をきっかけに転職し、起業につながったパターンです。以前働いていた電通は比較的自由に働き方を選べたこともあり、電通に勤めながら父親が立ち上げたNPO法人を手伝っていたんですね。

そうした経験から、「大企業もいいけれど社会貢献性のある小さな組織もいいな」と思うようになり、スタートアップに転職。その後、コロナ禍で空いた時間ができたことで、副業で地域の中小企業支援をするようになりました。

──コロナ禍が副業のきっかけというケースが多いのですね。

矢野 リモートワークになると移動がなくなるため、純粋に使える時間が増えたんですよね。

大久保 僕はもともと「仕事が趣味」というタイプで、空いた時間があればうまく使いたいと思っていました。ある意味でコロナ禍は絶好の機会でしたね。

副業人材から大企業のノウハウを得る

──ここからは、実際に副業をされてみて感じられたことについてお聞きします。皆さんの副業先のスタートアップは、副業人材に何を求めていると感じていますか?

矢野 販路開拓や事業開発のノウハウ、営業の仕方だと思います。

飯田 まさに、スタートアップが大企業にアプローチするとき、副業人材がいると企業組織へのアプローチの方法や商品・サービスの提案の仕方のご提案や、副業者がこれまで培ってきた幅広い人脈も含めて役に立つと思います。特に大きな企業の組織やビジネスの構造がわかることで、アプローチすべきルートや攻略法の精度が高まると思います。

大久保 企業によって求められることは違いますが、共通しているのは「経験」と「第三者視点」だと思います。

「経験」とは大企業で得られた調整力で、スタートアップが大企業に営業をしたいと思ったら、大企業の調整力がないとなかなか突破できません。調整力はスタートアップの力になると思っています。

もう一つ、スタートアップの中にいると、自社のプロダクトやサービスをとことん愛しながら磨いていくと思うのですが、一方で第三者視点が足りなくなる場面もあるのではないかと。そういったシーンにおいて、副業人材が関与することで、第三者視点を得ることができると思っています。

──大企業とスタートアップはカルチャーが異なりますが、大企業の副業人材とスタートアップが良好な関係性を築くには、どのようなポイントがありますか?

大久保 信頼関係の構築は大事ですね。スタートアップの経営者は人生をかけた挑戦をしていると思うので、副業人材はその視点を理解しながら、同時に第三者として信頼関係を構築していく必要があると思っています。

矢野 副業人材は本業による安定した収入があるので、例えば、スタートアップの業績が芳しくない場合でも(報酬を抑えることができるので)辞める必要がないかもしれません。距離があるようですが、第三者である強みを活用すると、スタートアップの成長にもっと貢献できると思います。

──最後に、皆さんが本業を続けながらも副業に取り組まれている、そのモチベーションは何でしょうか。

矢野 あと10年もすれば、会社員が本業の一社からすべての収入を得る時代は終わると思うんです。自分が貢献できる、もしくは興味のある複数のプロジェクトに関わることで、自己成長を実現できればいいと考えています。私の場合、すでに本業と副業の線引きはないですね。

飯田 副業は「プロのキャリアのシェアリング」だと思っています。企業は必要なときに必要な期間、必要な人に副業で関わってもらえばいいし、副業人材は経験やスキルをその企業にシェアしたらいいと思います。。

大久保 社会全体で人材の適材適所を考えると、スタートアップの創業期に専門職を正社員として雇用する必要はないと思うんです。

エンジニア、マーケター、デザイナー、経理など長年キャリアを築いたプロ人材は全国にいます。そういう人たちを時間単位で雇用するのはスタートアップにとってメリットしかありません。

矢野 その通りだと思います。だから、福岡のスタートアップに副業人材をどんどん活用してほしいですし、一緒に福岡を盛り上げていけたらうれしいです。

text by Tomomi Tamura / photographs by Shogo Higashino / edit by Keita Okubo

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