イギリスの経済誌「エコノミスト」が発表した女性の働きやすさランキングでは、日本は調査対象の29か国中27位。G7の中で最下位という厳しい結果となった。 2024年2月22日、株式会社西日本新聞社が福岡都市圏で発行しているフリーペーパー『ファンファン福岡』は、女性の活躍と社会進出を応援する未来志向のプロジェクト“Will Well Women” の一環として、「ファンファン福岡文化祭」を開催。 イベントでは、福岡のビジネスシーンで活躍する女性3名が登壇し、自身のキャリアや女性活躍推進について感じていることをテーマにパネルディスカッションが展開された。本記事では、その模様をダイジェストで紹介する。 モデレーターは西日本新聞社記者・下村ゆかりが務める。
橋本華恋
キャンプ女子株式会社 共同代表
阿部博美
株式会社オフィスat 専務取締役
田中智恵
Ambitions FUKUOKA 拠点リーダー 兼 副編集長
事業の失敗は「思いとニーズのギャップ」にあり
──福岡を拠点に、フォロワー数6.4万人の公式Instagram「camjyo」や、キャンプ用品のレンタルサービス「福岡キャンプレンタル」を運営しているキャンプ女子株式会社。共同代表 の橋本氏は、創業直後に訪れた、パンデミックによる倒産の危機を振り返る。
橋本 2019年6月に起業し、11月に福岡市南区の「油山市民の森」内にグランピング施設「油山グランピング」をOPENしました。しかし、2020年1月に国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されたことをきっかけに、3月の春休みシーズンまで埋まっていた予約がすべてキャンセル。返金対応に追われる中、施設も休業せざるを得ない状況に陥りました。
手元資金の枯渇から倒産が脳裏をよぎり、目先の売上を立てることばかり考えていました。そんな中、返金対応したお客様から「春休みに家族でグランピングすることを楽しみにしていました」とメッセージが届き、ハッとしました。お金のことばかり気にして、グランピングができずに残念な思いをしているお客様の気持ちに、寄り添えていなかったためです。
そこでステイホームを楽しむための「おうちキャンプ」を発案し、Instagramに投稿したところ多くの反響をいただきました。起業直後の施設閉鎖を乗り越えられたことは、起業家として大きな成長につながりました。
──株式会社オフィスatで、女性を対象にしたファンマーケティングや、女性のブランディングなどを支援している阿部氏は、「ビジネスは思いだけでは続かない」と語る。
阿部 多くの女性起業家に伴走した経験から、強い思いをもとに生まれたサービスが、必ずしも世の中から必要とされるサービスとは限らないことを知りました。
思いだけではなく、社会のトレンドや市場の成長性なども踏まえたサービスづくりが重要です。私が女性起業家の相談に乗るときは、相談者の想いを、どのようにビジネスに昇華していくのかを一緒に考えています。
女性活躍を推進するべき“真”の理由
──女性活躍の推進が叫ばれる昨今。「なぜ女性活躍が重要なのか」という問いに対する明確なアンサーはどこにあるのだろうか。阿部氏は次のように語る。
阿部 女性が活躍することで、男性だけでは持ち得なかった視点が生まれ、社会やビジネスにイノベーションが起こります。
例えば、経口避妊薬「ピル」は、認可されるまでに40年を要しました。一方、ED(勃起不全)治療に効果があるとされている「バイアグラ」は、たった2週間で認可されています。
女性の政治家が少ないことが原因で、社会の変化が遅れた事例です。私たち女性は、社会に“気づき”を与えられる存在なのです。
──田中氏が過去に勤務していた株式会社リクルートホールディングスは、2023年度の日本経済新聞の調査において、女性管理職比率が最も高い日本企業に選出されている。田中氏は女性が企業で活躍するには、女性が自信を持てる仕組みづくりが重要だと語る。
田中 女性に多いと言われている「インポスター症候群」をご存知でしょうか。スキルや実績があるにもかかわらず、自信が持てないことで、ネガティブな感情状態に陥る心理傾向で、仕事や生活に支障をもたらす可能性があります。
リクルートには、性別を問わず社員が自信を持てる仕組みが多くありました。例えば、成長を実感しやすい目標設定プログラムや、マネジメント能力を培う研修などです。自信を付けやすい環境を整備することが、企業における女性活躍の推進に不可欠だと考えます。
女性自身も主体的にキャリアを切り開くことが重要
──最後に、各登壇者から福岡での活躍を目指す女性に向け、メッセージが贈られた。橋本氏は「がんばり過ぎないで」と思いを述べた。
橋本 福岡から東京や海外に出てチャレンジする女性の話を聞く機会は少なく、さらに女性が活躍しやすい社会に変化することを望みます。一方、ビジネスの場で活躍することだけが、人生のすべてではありません。がんばり過ぎず、人生を楽しんでほしいと思います。
──また田中氏は、東京や大阪のビジネスシーンに比べ、福岡では女性がサポート役に徹していることが多いと持論を展開した上で、「福岡で女性が活躍できる機会を創出していきたい」と語る。
田中 福岡では取材や会議の場において、男性が上席を務め、女性がサポート役として同席しているケースが、首都圏に比べて多い印象です。
サポート役にやりがいを感じているのであれば問題ありません。しかし、バイタリティを発揮し、自ら道を切り開いていきたい女性もいると考えています。
そんな女性に、リクルート創業者・江副浩正氏の「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉を贈ります。
今の居心地の良い環境から一歩抜けだし、ぜひ新たなチャレンジをしてみてください。私自身も、福岡で女性が活躍できる機会を創出することに挑戦していきます。
──阿部氏は書道家・武田双雲氏の言葉で、座右の銘にしている「行き当たりバッチリ」をメッセージに選び、1999年に心理学者のジョン・D・クランボルツ教授が発表したキャリア理論「計画的偶発性理論」について、自身の経験を踏まえて述べた。
阿部 「計画的偶発性理論」の調査では、ビジネスで成功した人のうち、偶然のできごとによってキャリアのターニングポイントを迎えた人が8割に上ることが判明したそうです。
変化の激しい時代において、5年・10年単位のキャリアプランを描いたところで、実現するのは困難です。私自身、20年前に、このようなイベントに登壇している自分を想像すらしていませんでした。
とはいえ偶然に任せ、ぼんやり過ごすのもNGです。同理論ではキャリアを成功に導くため、「好奇心」「継続力」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」の5つが重要とされています。
楽観的に新たな挑戦をしたり、興味がある方向に流されてみたりすることで、「行き当たりバッチリ」な人生を手に入れましょう。
text & photographs by Ryoya Sonoda