【麻生泰】評論家になるな、動け。次世代のリーダーたちへ

大久保敬太

突然ですが、クイズです。 1.世界のGDPで、日本が占める割合。1995年は17.6%、2022年は何%でしょう。 ──正解は4.2%。(※1) 2.日本人のパスポートの保有率は何%でしょう? ──正解は、約17%。 知ってましたか? 日本は今、想像以上に、危機的で閉鎖的なんですよ。 ──長年、九州の経済を牽引し続けてきた麻生泰氏は、 インタビューの席につくなり、「クイズ」から日本の現状を語り始めた。 麻生氏は未来の日本に、どのような危機感を抱き、どのような希望を見るのだろうか。 変わりゆく福岡で、私たちビジネスパーソンたちは、何に気づき、何に取り組むべきだろう。 次世代の福岡経済を担うすべてのビジネスパーソンへ、麻生氏のメッセージを届ける。

麻生泰

福岡地域戦略推進協議会 会長 九州経済連合会 名誉会長

1977年麻生セメント株式会社入社、社長であった兄・太郎氏の政界転身に伴い1979年から同社社長(現・会長)。2013年九州経済連合会会長(〜2021年。現・名誉会長)。2014年から福岡地域戦略推進協議会会長を務める。自身のライフワークでもある教育(福岡雙葉学園理事長)・医療領域(株式会社麻生代表取締役会長)における経営改革を続けている。

No Action,Talk Only  危機感なきジリ貧の日本

麻生泰氏。1872年、石炭事業に端を発し、今や病院や学校など幅広い分野をカバーする麻生グループの会長だ。くだけた口調の「クイズ」の奥に、長年九州経済を率いてきたリーダーとしての、歯がゆさや悔しさがにじむ。 

「現代の日本をひとことでいうと、『危機感なきジリ貧』です。世界経済における日本のプレゼンスは年々低下。国内では高齢化と人口減少が進み、国の借金は増え続けています。加えてパスポートの所持率からわかるように、日本人は外を見なくなっている。

理由は『危機感の欠如』です。今、日本は世界で『NATO』と言われてるんですよ。意味は『No Action,Talk Only』、私たち日本人は『口だけ』だと──。最近もベトナムの方々と会話する機会があり知ったのですが、日本企業は承認に時間がかかりすぎて、結局動きは出ない。対して韓国企業は新しいビジネスをスピーディーに始めているのです。 

日本という国は、豊かです。経済は停滞していても、平和で、暮らしにも困らない。しかしこれらは先人たちが築いてきた蓄積であり、将来も続く保証はどこにもありません。子どもの世代、孫の世代、日本は財政難や国際関係で苦労するかもしれません。それなのに、今の日本には危機感が足りないように感じられるのです。このまま日本がジリ貧でいるなんて、たまるか──。私は、強く思っています」

「行動」だけでは足りない  経営視点を持ち、結果で示せ 

ジリ貧の日本を覆う閉塞感、その要因のひとつを「評論家目線」だと麻生氏は語る。 

「政治や会社に文句があるのはわかります。では、そういう己は何をしているか。私たちは先人から環境を受け継いでおり、とても恵まれています。感謝すればいいというものではない、恵まれているのであれば、そこから何をするかが大切です。地域のために何をするか、次世代のためにどのような役割を担っていくか。評論だけでなく『動く』べきです」 

それも「動くだけ」では足りない。「動かす」ことまで実現しなければ、意味がないと言う。 

「単に動いたというのはエクスキューズであって、それだけではダメです。結果を出して、周囲を動かす、私たちはここまでやりきらなければいけません」 

この発言には、麻生氏が長年経営者としてビジネスの世界で結果に向き合い、社会の変革に取り組んできた背景がある。麻生氏は2013年から2021年まで、当時九州電力出身者以外では初の九州経済連合会会長を務めた。任期中で、麻生氏自身がもっとも大きな貢献だったと振り返るのは、KPI(Key Performance Indicator)などビジネスの視点を浸透させたことだという。

「九州7県に沖縄と山口を加えた9人の知事と、4つの経済団体の代表が集まる会議があるのですが、そこで私の就任当初に聞こえてきた決定や報告の内容は『これから連携していきます』『精いっぱいやります』など、数字を伴っていないものばかり。九州のトップが集まる場所なのに、ビジネスの世界とは違う会議の流れでした。いつまでに何を行い、その結果として何億、何パーセントの結果を出すのか。具体的なKPIや経営マネジメントを取り入れて数字にシビアになることで、意識が変わります。

たとえ行政であっても同じです。行政の中には、赤字であることに危機感を持たず、さらに自分の任期中に改革をしたがらない人も一定数存在します。そういう人たちがマネージしているとすれば、この国は本当に良くならない。経営の観点で物事を語ることは、私が会長の任期で最も推進したことですし、今もその必要性を強く思っています」 

一方、国や行政は、そう簡単に変わるものではない。麻生氏は、早くから少子化が進む時代の解決策のひとつに、現在の行政区域を再構築する「道州制(※2)」を提唱してきた。しかし、国の仕組みを変えるには、大きな障壁が立ちはだかる。 

 「道州制については、兄(麻生太郎氏)にも話したのですが、さすがにさまざまな提言を聞きなれているのでしょう。『仮に必要だとして、誰がそれを提言し、承認するのか』と返ってきました。

現状の仕組みを理解した上で自分ならどう行動すべきなのかを考えろということです。私は『ただ理想を語るだけ』であり、力不足で、有効なアプローチができていなかったのです。しかし評論家になってはいけません。仕組みを変える、これまでにない新たな方法は必ずあるはずです。これから九州経済から仕掛けていきたいと考えています」 

野心を語る表情は、78歳を迎える今もなお、使命感に燃える変革者だ。 

アジアの玄関口、強い首長。 福岡にはアドバンテージがある 

自ら変革の最前線に立つ麻生氏は、今の福岡に未来への希望を見ている。 

「福岡には、ほかのエリアにはないアドバンテージがあります。ひとつは、アジア諸国に近い地理的な特徴です。日本はこの25年ほどGDPが横ばいですが、アジアのGDPは急激に伸びていて、『煮詰まる日本、伸びゆくアジア』という状況です。日本のリーダーにとって、アジアのマーケットとのリンクを考えることはもはや必須です。その玄関口となりうるのが、福岡なのです」 

もうひとつは「強い首長」、現在4期目を迎えている福岡市 高島宗一郎市長の存在だ。 

「ミッション、ビジョン、そしてパッションを持つ首長に恵まれることは、都市として非常に重要です。高島市長は『福岡をアジアのリーダー都市にする』というビジョンを掲げて行動しており、この流れは加速し、今の閉塞感を突破できるのではないかと思います。

また、高島市長の存在もあり、福岡では産学官民の連携が強固です。私が会長を務めるFDC(福岡地域戦略推進協議会)は、近年は東京など外からの参画企業も増えており、福岡への期待の高さを感じています。FDCという組織があることで、行政・学校・企業・個人だけではできない取り組みが実現できるようになります。

例えば、行政がプランニングして、私たち民が動く。あるいは私たちが海外に売り込む際、行政が応援に入る──。こうした連携が生まれてきており、福岡では今、新しい『動き』が確実に起こり始めています。私も会長としてこれからもチャレンジし続けていきたいと思います」 

若きビジネスリーダーよ、尖れ 

日本経済の停滞に危機感を抱く麻生氏だが、日本には世界に誇れる強みがあると考えている。それが、未来のイノベーションにつながる、新しい技術の力だ。 

「今、新しく魅力的なビジネスや人がいないかといえば、そんなことはありません。高い技術力を持ち、挑戦している『尖っている』人たちがいます。30〜40代では、自分で起業した人もいれば、企業の2代目・3代目として新たなチャレンジに取り組む人もいて、彼ら・彼女らのポテンシャルは非常に高い。残念なのは、彼らのことが十分に世に伝わっていないことです。彼らにもっと注目が集まる世の中にしていきたい。 

未来のため、私にできることは何か。それは、私自身が本気で社会を変革しようと動いている姿を、次の世代の人たちに見せることではないでしょうか。日本のことを考え、その重さに心を燃やし、取り組むことは、非常に魅力的でやりがいの有るライフワークです。私自身の行動で、そのことを次の世代に伝えたいです。また、若い人たちが新しいチャレンジをしやすいように、アイデアや財政面、連携面など、さまざまな面でバックアップする役割も担っていきたいと考えています」 

福岡には、福岡から 日本を動かす責任がある

「繰り返しますが、福岡には大きなアドバンテージと可能性があります。アジアに近く、リーダーがいて、ビジョンがある。ラッキーなんです。しかしそこには大きな使命や責任が伴います。だからこそ、今、地域や次世代にどう貢献できるか真剣に考え、動き、動かすことが求められています。過去の延長だけでなくストレッチした未来を目指して、福岡・九州から日本を動かしていきましょう。 

まあ、いろいろ話しましたが、みんなで明るくやっていきましょうよ」 

※1 出典:「選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像-」(内閣府)、「2022年度(令和4年度)国民経済計算年次推計」(内閣府経済社会総合研究所)
※2 道州制:47都道府県を廃止して道州を設置すること。県の役割は大幅に市町村に移譲される。 

 text by Emi Sasaki / photoglaphs by Yasunori Hidaka / edit by Keita Okubo

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